著者
高橋 統一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S4-2, 2018 (Released:2018-08-10)

非臨床毒性試験に用いられる正常実験動物と,実際に薬剤を服用するヒトでの薬剤(化学物質)への反応性の違いは数多く報告され,このような違いが生じる大きな要因として薬剤を服用するヒトの個体差(人種・性別・年齢・生活環境・生活習慣・疾患の有無など)が報告されている。これらのヒトにおける個体差のうち,非臨床毒性試験で評価・対応可能な要素として生活習慣(疾患の素因)や病態(化学物質誘発あるいは自然発症病態モデル動物)があり,多くの研究者がヒトの病態に類似した実験動物を作出して化学物質の安全性や毒性発現機作を調べている。これらの研究で判明した知見,すなわち正常実験動物と病態モデル動物の化学物質への反応性の違いやその理由を,新たな薬剤の開発のために実施される非臨床毒性評価に生かす努力がなされているが,選択する病態モデル動物によって同一薬剤でも異なる結果が得られる等,病態モデル動物を利用した毒性試験の評価系確立には,さらに知見の収集や解析が必要と考えられる。このような背景から,我々はヒトの糖尿病と表現型が類似したSDTラットやSDT fattyラットを安全性評価に用いる試みを続けている。SDT fatty(SDT.Cg-Leprfa/JttJcl)ラットはSDTラット(自然発症の非肥満2型糖尿病モデル)に肥満遺伝子Leprfaを導入した肥満2型糖尿病モデル動物である。SDT fattyラットの糖尿病性合併症やその病態プロファイルは特に慢性病態において他の糖尿病モデルラットよりもヒトの病態に類似性が高いことが報告されている。さらに,SDT fattyラットでは糖尿病発症による栄養学的な修飾により,正常動物と比較し薬物代謝も異なる可能性があり,糖尿病に関連した研究に最適な病態モデル動物の1つであると考えている。我々はこれまでにいくつかの薬剤や化学物質について肝臓を中心に病態モデル動物における毒性修飾を調べており,これらの結果は非臨床安全性評価の向上に寄与するものと考える。