- 著者
-
本橋 隆子
小平 隆雄
中辻 侑子
松浦 和子
益子 まり
高田 礼子
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.3, pp.191-210, 2020-03-15 (Released:2020-04-01)
- 参考文献数
- 18
目的 都市生活者の近所付き合いの現状と日常生活の支援や近所の人・ボランティアによる受援に関連する要因を明らかにし,都市部における互助の課題とその解決策を検討する。方法 川崎市宮前区に居住する30歳以上の男女1,000人を対象に,「宮前区民のくらしを豊かにするためのアンケート」を実施した。本研究で使用した調査項目は,基本属性(性別,年代,居住形態など),近所付き合い,個人情報提供の意思,手段的日常生活活動(以下,IADL)に対する支援の意思と受援の意思である。IADL別の支援と近所の人・ボランティアによる受援に関連する要因を検討するために,基本属性,近所付き合い,個人情報提供の意思,IADLの対する支援の意思を独立変数とし,二項ロジステック回帰分析を行った。結果 407人を有効回答とした。近所付き合いは「生活面で協力」11.8%,「立ち話程度」33.3%,「あいさつ程度」46.0%,「付き合いなし」9.0%であった。支援してもよいと回答した人の割合が最も高かったIADLは声かけ・見守りで60.1%,次いでゴミ出しが51.7%であった。一方,声かけ・見守りを近所の人・ボランティアにお願いすると回答した人は27.7%,ゴミ出しは28.5%であった。次に「支援する」と有意に関連した要因は,女性,近所付き合い(立ち話程度・生活面で協力)であった。個人情報提供に対する抵抗は支援の阻害要因となっていた。「近所の人・ボランティアによる受援」と有意に関連した要因は,女性,各IADLに対する支援の意思であった。一方,持ち家は受援の阻害要因となっていた。結論 都市部では,定住や居住年数によって近所付き合いが親密になるとは限らなかった。都市部の近所付き合いはあいさつ程度が主流だが,日常生活の支援には会話ができる程度の近所付き合いが必要であることが明らかとなった。また,見守りやごみ捨てなどの簡単な日常生活の支援はしてもよいと考えている人が多い一方で,自分に支援が必要となった場合は近所の人・ボランティアにお願いする人は少なかった。しかし,近所の人・ボランティアによる受援は,各IADLの支援の意思が関連しており,支援と受援には相互関係があった。都市部における日常生活の「互助」の促進には,会話ができる近所付き合いを目指すだけでなく,支援を経験する機会を増やす取り組みが必要であることが示唆された。