著者
高田 達之 鳥居 隆三 土屋 英明 木村 博 木本 安彦 細井 美彦 入谷 明
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究は(1)サルES細胞を用いた遺伝子改変技術の確立と(2)そのES細胞由来の遺伝情報を有する産仔を得る、という2つの主目的からなっている。まず(1)の課題に関して、我々は世界に先駆けて遺伝子導入が困難とされたカニクイザルES細胞への蛍光蛋白GFP遺伝子の導入に成功した。そしてこのGFP発現カニクイザルES細胞(GFP-ES)がin vitro, in vivoにおいて内、外、中胚葉に分化し、多分化能を維持していることを明らかにした。さらにGFP-ES細胞を4-6細胞期のカニクイザル正常発生胚に注入すると、割球と混じり合って増殖し、キメラ胚盤胞を作る能力があることを証明した。すなわち目標であったサルES細胞を用いた遺伝子改変技術を確立することができた。さらにこの過程でsiRNAのサルES細胞への効率良い導入方法の開発にも成功し、サルES細胞において容易な遺伝子発現抑制方法を確立することができた。すなわちサルES細胞における遺伝子改変技術として、過剰発現系とその逆の発現抑制という2つの技術を確立することに成功した。次に2番目の課題に関して、このGFP-ES細胞を4-6細胞期の正常発生胚に注入後、レシピエント個体の卵管に移植し、キメラザルの作出を試みた。その結果、4頭の妊娠に成功し、1頭の正常仔の出産に成功した。この個体の皮膚、および血液における、明確なGFPの発現は認められなかったが、ゲノムにおけるGFP遺伝子の存在をPCR法により調べたところ、キメラであることが明らかになった。すなわち世界で初めてES細胞を用いたキメラザルを誕生させることに成功した。以上、本研究の結果、サルES細胞に遺伝子改変を行い、これを用いて遺伝子改変ザルを作製するための細胞工学的、発生工学的方法を開発し、必要な技術基盤を確立することができた。