著者
長谷川 昌美 坂元 秀樹 〓 小虹 位下 幸子 白川 貴士 大谷 香 高見 雅司 高見 毅司 石井 裕子 佐藤 和雄
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.479-485, 1995-05-01
参考文献数
11
被引用文献数
1

Estra-1,3,5 (10)-triene-3,17-diol (17β)-, 3-[bis(2-chloroethyl) carbamate] (Estramustine : 以下EMと略)は estrogen (E)に nitrogen mustardを結合させた抗腫瘍剤である. その効果は微小管阻害作用によるものとされ, Eの抗androgen作用と相乗させることで前立腺癌の経口抗癌剤として現在使用されている. 我々はこの抗癌剤の構造骨格である Eに着目し, この製剤がE受容体(ER)をもつ腫瘍に対するミサイル療法剤となる可能性を検討した. ヒト子宮体癌細胞株Ishikawaならびに当科で分離樹立した E非依存性の亜株 EIIL (Estrogen Independent Ishikawa Line)に対し in vitroにおけるEMの効果を検討した.その結果, (1) EMは濃度依存性にIshikawaおよびEIILの増殖を抑制したが,そのID50はIshikawaでは12μM, EIILでは65μMであった. (2) EMの培養系への添加は腫瘍細胞の剥離とDNAの断裂を起こしたが, この断裂は90 base pairの整数倍であった. (3) EM添加後にc-erbB-2, fasならびに nidogenの発現を β-actinの発現に比較して検討した. Ishikawaの c-erbB-2の発現は対照群で0.98±0.12 (X^^-±SD, n=3), EM群で1.02±0.23, EIILではそれぞれが0.99±0.34, 0.95±0.43. fasはIshikawaの対照群で0.89±0.20, EM群では 0, EIILでは対照群1.13±0.54, EM 群で1.35±0.78とIshikawaにおいてのみ有意 (p<0.01)のfas発現抑制がみられた. nidogenの発現は Ishikawaの対照群で0.88±0.22, EM群では0.21±0.10でEM群で発現の低下(p<0.05)が観察された. 一方EIILでは対照群1.30±0.43, EM群1.11±0.87と両者には有意の変化がみられなかった. 以上の結果より EMには体癌株の増殖抑制効果があることが確認された. この抑制は ERの有無により効果が変わるとともに, fas, nidogen発現の抑制を伴うことが明らかとなった.