著者
高野 牧子 堀井 啓幸
出版者
山梨県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

身体表現による幼小連携カリキュラム構築の基礎資料を得ることを目的に、日本、イギリス、キューバでインタビュー及び実態調査を行った。その結果特にイギリスでは、(1)小学校開始を低年齢化した「レセプションクラス」の遊び中心から徐々に学習へとつなぐ「なだらかな」接続、(2)接続期の人的支援体制、(3)信頼関係に基づいたダンス教育のおける専門家の活用の実態を明らかにした。このような幼児期から小学校への教育内容の連続性は、現在の日本では未着手であり、今後「幼小連携」のカリキュラム構築にむけて、貴重な資料となったと研究成果を評価する。
著者
高野 牧子
出版者
山梨県立大学
雑誌
山梨県立大学人間福祉学部紀要 (ISSN:18806775)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.65-72, 2006-03-15

イギリスでは従来から、幼児期の身体表現はクリエイティブ・ムーブメント(Creative Movement)として創造性重視の活動が行われ、舞踊教育の基盤となっている。そこでイギリスにおいて、主に2歳の幼児とその保護者を対象としたクリエイティブ・ムーブメントの親子教室3ヶ所を観察調査し、その特徴を明らかにした。その結果、1回の活動内容が豊富で、展開が早く、静動の緩急をっけ、子どもたちが飽きないように工夫されていた。活動最後には子どもたちを寝かしつけてクールダウンし、心拍数を下げ、心身ともに興奮状態を覚ましてから終結する配慮があり、子どもたちに対して大変有効であった。また伸縮性のある布やフープ、マラカス、ボール、パラバルーン、トンネルなど多様な教材を用いて、偏ることなく様々な運動能力の発達を促していた。さらに、子ども向けの童謡だけでなく、様々な音楽、特に民族音楽なども積極的に利用し、幼児期から音楽を通して異文化に触れ、理解しあえる工夫がされていた。活動は指導者も含め、参加者全員が円になって始め、時間と経験を共有しながら互いに学び合い、それぞれのアイディアで自由に遊び、表現する創造性重視の主体的活動が実践されていた。親子が指導者から一方的に習うだけではなく、参加者が相互に刺激しあい、親子で共に何かを創り出す双方向型講座は、今後の日本の親子講座に対して大変示唆に富むものである。
著者
高野 牧子
出版者
山梨県立大学
雑誌
山梨県立大学人間福祉学部紀要 (ISSN:18806775)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.21-29, 2009-03-06

言葉によるコミュニケーションが未発達な幼児期に、子どもとコミュニケーションがうまくとれず、悩む母親が多い。母親は子どものノンバーバルな表現からもその欲求や思いを理解していくことが必要である。本研究は母親が子どもの発する日常のノンバーバルな表現をどのように理解しているのか明らかにすることを研究目的とした。母親92名へアンケート調査を実施し、子どもの欲求場面である「空腹」「睡眠」「排尿」「排便」「遊び」において、子どもがどのように訴えるか具体的に尋ねた。はじめに月齢による身体表現と言葉によるコミュニケーションの発達の諸相をつかみ、次に母親の全記述554件を動きの分析に優れたラバン理論の視点を援用した5つのカテゴリー「身体部位」「動作」「ダイナミクス」「空間性」「関係」に「言葉」「特になし」を加えて7カテゴリーに分類し、欲求場面での母親が理解する子どもの表現の特徴や傾向を検討した。その結果、動きによる表現を経て言葉での表現への発達には3つのパターンがあり、「空腹」「遊び」は急速に言葉による表現へ発達していくのに対し、「睡眠」は言葉への発達が鈍く、「排便」「排尿」は遅れるという発達の順序性が見られた。また各欲求場面に応じて子どもの表現に一定の傾向や特徴が認められた。「空腹」では象徴的身振りや実際に食べ物のある「空間」への移動、「睡眠」では「目をこする」「寝る」「暴れる」などが特徴であった。「排尿」は言葉による訴えを主とし、動きからの感じ取りが少ない傾向であった。「排便」は「隠れる」ことが特徴であり、「遊び」は直示的身振りの他、「手を引っぱる」「物を持ってくる」など、直接母親への身体接触を伴って訴えてくることが多い。つまり、子どもが該当の「身体部位」に触れる、特徴的な「動作」をする、欲求するものがある「空間」へ移動する、「関係」を求めることは、母親にとって、とても理解しやすい子どものノンバーバルな表現であった。一方、動きの時間性や力性から生まれる表現的な質「ダイナミクス」に関する記述は非常に少なく、子どもの動きの様子から感じ取ることがあまり行われていないのではないかと推測された。