著者
寺久保 光良
出版者
山梨県立大学
雑誌
山梨県立大学人間福祉学部紀要 (ISSN:18806775)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.21-30, 2006-03-15

本研究は、生活保護法およびその施行にあたる生活保護行政と、国民(要保護者)および利用者との間に乖離状況が生じていることに焦点を当て、乖離の状況、原因、理由、その克服の課題などを明らかにしようとするものである。本研究についての先行研究は、利用者の視点での裁判事例などに見ることはできるが、その他はほとんど無い。本論考では生活保護相談窓口職員が刺殺された事件を取り上げ、乖離状況の問題を探ろうとするものである。研究は緒についたばかりであり、資料などの少ない中での論考であるため試論と位置づけ、今後の研究への足がかりとする。
著者
畑本 裕介
出版者
山梨県立大学
雑誌
山梨県立大学人間福祉学部紀要 (ISSN:18806775)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-15, 2010
被引用文献数
1

本稿は、いわゆる「限界集落論」を批判的に検討し、さらに実際の調査でこうした集落の姿を違った角度から明らかにしようとするものである。限界集落論とは、疲弊する地方の中でも高齢化が進み地域経済の担い手が喪失しつつある集落を限界集落と名づけ、その集落の困窮を明らかにする主張である。とはいえ、現実のそうした集落は、外部との交流が閉ざされているわけではないし、自動車などの交通手段の発達のために周辺の地方都市と密接に結びついて日常交流圏を形成している。また、こうした集落の生活者も高度に自立した人々であり、その生活は悲惨でも憐憫の対象でもない。地域の悲惨さを強調する議論は、無駄な地域の再開発や復興の議論に結び付く危険がある。本稿はこうした傾向には継承を鳴らし、真に必要なのは生活者の現在の生活を快適なものとするためのメンテナンスを行う地域福祉であると主張する。手続きとして、まずは限界集落論についての概要の説明とその批判的検討を行った。次に、著者の行った調査の対象地域である山口県山口市徳地地域の概要を紹介した。その後、地域調査の結果を検討し、もう一度限界集落論の主張と、ここで明らかになった事実をつき合わせ、地域生活の生活基盤維持のために真に必要な方策の方向性について提案した。最後に、著者が提唱する「空間戦略」概念に基づいた地域の把握の仕方でもってこの地域の状況を改めて俯瞰しまとめとした。
著者
神山 裕美
出版者
山梨県立大学
雑誌
山梨県立大学人間福祉学部紀要 (ISSN:18806775)
巻号頁・発行日
no.1, pp.1-10, 2006

ストレングス視点は、論理実証主義から社会構成主義へのメタ理論の転換を背景に、医療モデルのアンチテーゼとして展開した。ストレングス視点は、ジェネラリスト・ソーシャルワークを形成する主要な枠組みであり、その特徴は、利用者のストレングスを見出し、個人から環境への交互作用をふまえ介入することにある。ICF(国際生活機能分類)とストレングス視点は、利用者の個人因子と環境因子からその長所を見出し開発することに共通点がある。そして、ジェネラリスト・ソーシャルワークによる実践は、ICFの理念を実現するひとつの方法となる。ストレングス視点によるジェネラリスト・ソーシャルワークは、障害とストレングスをアセスメントする視点を提供し、個人・集団・組織・地域の交互作用をふまえ介入する。ストレングス視点は、地域生活を支援する重要な概念となる。
著者
高野 牧子
出版者
山梨県立大学
雑誌
山梨県立大学人間福祉学部紀要 (ISSN:18806775)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.65-72, 2006-03-15

イギリスでは従来から、幼児期の身体表現はクリエイティブ・ムーブメント(Creative Movement)として創造性重視の活動が行われ、舞踊教育の基盤となっている。そこでイギリスにおいて、主に2歳の幼児とその保護者を対象としたクリエイティブ・ムーブメントの親子教室3ヶ所を観察調査し、その特徴を明らかにした。その結果、1回の活動内容が豊富で、展開が早く、静動の緩急をっけ、子どもたちが飽きないように工夫されていた。活動最後には子どもたちを寝かしつけてクールダウンし、心拍数を下げ、心身ともに興奮状態を覚ましてから終結する配慮があり、子どもたちに対して大変有効であった。また伸縮性のある布やフープ、マラカス、ボール、パラバルーン、トンネルなど多様な教材を用いて、偏ることなく様々な運動能力の発達を促していた。さらに、子ども向けの童謡だけでなく、様々な音楽、特に民族音楽なども積極的に利用し、幼児期から音楽を通して異文化に触れ、理解しあえる工夫がされていた。活動は指導者も含め、参加者全員が円になって始め、時間と経験を共有しながら互いに学び合い、それぞれのアイディアで自由に遊び、表現する創造性重視の主体的活動が実践されていた。親子が指導者から一方的に習うだけではなく、参加者が相互に刺激しあい、親子で共に何かを創り出す双方向型講座は、今後の日本の親子講座に対して大変示唆に富むものである。
著者
高野 牧子
出版者
山梨県立大学
雑誌
山梨県立大学人間福祉学部紀要 (ISSN:18806775)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.21-29, 2009-03-06

言葉によるコミュニケーションが未発達な幼児期に、子どもとコミュニケーションがうまくとれず、悩む母親が多い。母親は子どものノンバーバルな表現からもその欲求や思いを理解していくことが必要である。本研究は母親が子どもの発する日常のノンバーバルな表現をどのように理解しているのか明らかにすることを研究目的とした。母親92名へアンケート調査を実施し、子どもの欲求場面である「空腹」「睡眠」「排尿」「排便」「遊び」において、子どもがどのように訴えるか具体的に尋ねた。はじめに月齢による身体表現と言葉によるコミュニケーションの発達の諸相をつかみ、次に母親の全記述554件を動きの分析に優れたラバン理論の視点を援用した5つのカテゴリー「身体部位」「動作」「ダイナミクス」「空間性」「関係」に「言葉」「特になし」を加えて7カテゴリーに分類し、欲求場面での母親が理解する子どもの表現の特徴や傾向を検討した。その結果、動きによる表現を経て言葉での表現への発達には3つのパターンがあり、「空腹」「遊び」は急速に言葉による表現へ発達していくのに対し、「睡眠」は言葉への発達が鈍く、「排便」「排尿」は遅れるという発達の順序性が見られた。また各欲求場面に応じて子どもの表現に一定の傾向や特徴が認められた。「空腹」では象徴的身振りや実際に食べ物のある「空間」への移動、「睡眠」では「目をこする」「寝る」「暴れる」などが特徴であった。「排尿」は言葉による訴えを主とし、動きからの感じ取りが少ない傾向であった。「排便」は「隠れる」ことが特徴であり、「遊び」は直示的身振りの他、「手を引っぱる」「物を持ってくる」など、直接母親への身体接触を伴って訴えてくることが多い。つまり、子どもが該当の「身体部位」に触れる、特徴的な「動作」をする、欲求するものがある「空間」へ移動する、「関係」を求めることは、母親にとって、とても理解しやすい子どものノンバーバルな表現であった。一方、動きの時間性や力性から生まれる表現的な質「ダイナミクス」に関する記述は非常に少なく、子どもの動きの様子から感じ取ることがあまり行われていないのではないかと推測された。