著者
積山 和加子 沖 貞明 髙宮 尚美 梅井 凡子 小野 武也 大塚 彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】遠心性収縮は筋力増強や筋肥大効果が高く,かつ運動中の心拍数や血圧が低く保てるとの報告がある。そのため遠心性収縮を用いれば従来よりも運動強度を低く設定しても筋肥大が図れる可能性があり,我々はラットに対して乳酸性作業閾値50%以下の強度の遠心性収縮運動を長時間負荷することにより筋肥大を起こすことができることを確認した。しかし我々が用いた運動方法は低負荷ではあったが長時間の連続運動を行う必要があるという問題点を有しており臨床応用に向けての課題が残った。臨床において連続した運動を行うことが難しい場合に対して運動の合間に休息を挟むインターバル運動を行うことがある。そこで,本研究では遠心性収縮を用いた有酸素運動において,運動の合間に休息を挟むインターバル形式の運動であっても,連続運動と同程度の筋肥大効果があるのか,さらに筋力増強効果も認めるのかについて検討を行った。【方法】10週齢のWistar系雌性ラット21匹を対象とし,7匹ずつ3群に振り分けた。各群は,運動負荷を行わず60日間通常飼育するコントロール群,トレッドミル走行を90分間連続で行う連続運動群,総走行時間は90分として走行の合間に休息を挟むインターバル形式で行うインターバル運動群とした。連続運動群とインターバル運動群のトレッドミル傾斜角度は-16度,走行速度は16m/minにて3日に1回,計20回(60日間)の運動を行った。なお,トレッドミル下り坂走行は,ヒラメ筋に遠心性収縮を負荷できる方法として,動物実験で用いられている運動様式である。今回連続運動群に用いた運動負荷の条件は,筋肥大が確認できた我々の先行研究と同じ条件を用いた。実験最終日に麻酔下にて体重を測定し,両側のヒラメ筋を摘出した。右ヒラメ筋を,リンゲル液を満たしたマグヌス管内で荷重・変位変換機に固定し,筋を長軸方向へ伸張し至適筋長を決定した。その後電気刺激装置を用いて1msecの矩形波で刺激し,最大単収縮張力を測定した。強縮張力は最大単収縮張力の時の電圧の130%で,100Hzの刺激を1秒間行って測定した。次に左ヒラメ筋を,重量測定後に急速凍結した。凍結横断切片に対しHE染色を行い,病理組織学的検索を行うとともに筋線維径を測定した。体重,筋湿重量,筋線維径については1元配置分散分析を行い,有意差を認めた場合にTukey法を用いた。強縮張力についてはKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合にScheffe法を用いた。有意水準は5%とした。【結果】筋湿重量,筋線維径および強縮張力において連続運動群とインターバル運動群はコントロール群に対して有意に大きく,連続運動群とインターバル運動群では有意差を認めなかった。組織学的検討では,各群において異常所見は認めなかった。【考察】連続運動群では筋湿重量と筋線維径はコントロール群に比べ有意に増加した。これは我々の先行研究の結果と同様であり,遠心性収縮を用いた有酸素運動によって筋肥大効果を認めることが改めて示された。さらに強縮張力においてもコントロール群に比べ連続運動群では有意差を認めた。この結果から遠心性収縮を用いた有酸素運動は,ヒラメ筋の筋肥大に加え筋力増強効果もあることが分かった。次にインターバル運動群においても,筋湿重量,筋線維径および強縮張力はコントロール群に比べ有意に増加し,さらにインターバル運動群とは有意差を認めなかった。これらの結果から,遠心性収縮を用いた有酸素運動において,運動の合間に休息を挟むインターバル形式の運動であっても,連続運動と同程度の筋肥大および筋力増強効果があることが分かった。遠心性収縮は収縮に伴い筋長が延長する収縮様式のため,求心性収縮に比べ筋線維への機械的刺激が大きい。また,骨格筋は筋線維損傷後の修復過程において損傷前の刺激にも適応できるように再生し,遠心性収縮運動は繰り返して行うと筋節の増加によって徐々に筋長が延長した状態でも力を発揮できるようになるという報告もある。本研究において20回の遠心性収縮運動を繰り返すことによって適応が生じ,筋肥大や筋力増強が図れた可能性がある。今後は運動時間や頻度等についてさらに検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】これまで筋力増強や筋肥大が起きないとされてきた低負荷の有酸素運動でも,長時間の遠心性収縮運動により筋力増強と筋肥大が可能であり,さらにはインターバル形式で運動を行っても同様の効果があることを明らかにした。