著者
髙橋 康史
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.21-38, 2016 (Released:2017-06-30)
参考文献数
27

本稿の目的は, 犯罪者を家族にもつ人びとが, スティグマをいかにして内在化していくのかを, 生起される恥の感情に注目しながら明らかにすることである. そこで, 犯罪者を家族にもつ人びとを対象にインタビュー調査を行い, Rachel Condryの「恥の網の目 (web of shame)」を用いて分析を試みた. Condryの研究は, 重大な罪を犯した人の家族らに限定し, その恥の感情を類型化することにとどまっている. これに対して本稿では, 軽微な犯罪も分析の対象に含め, いかにして恥を感じるのかをプロセス的に捉えることを試みた.分析の結果, 犯罪者を家族にもつ人びとが抱く恥の感情は, 他の家族成員の犯した罪の大小に接近するよりもむしろ, 事件前後においての社会における自己の位置づけの落差を認識することによって生起されていたことが明らかになった. 家族らは刑事司法システムにおける警察などとの相互行為のなかで「犯罪者の家族」としてのまなざしを認識しながら, 置かれている状況の変化を自覚していくことになっていた. 以上の分析によって, 犯罪者を家族にもつ人びとの恥の感情は, スティグマをもたない時期の社会的経験によって影響を受けるという示唆が得られた.