著者
安田 裕子 荒川 歩 髙田 沙織 木戸 彩恵 サトウ タツヤ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.181-203, 2008 (Released:2020-07-06)

中絶を選択した女性は,生命の喪失や,社会的に容認されないというスティグマに苦しむ。そのために,自らの経験や気持ちを誰かに語ることが困難であり,孤独のうちに悲嘆のプロセスを辿る人が多い。本稿では,20 歳前後の未婚の時期に中絶を経験し,中絶手術後 2 年以上経過した女性 3 名を対象にインタビューを行い,その経験を聴きとった。そして,中絶を選択する未婚の若年女性が何に迷い苦しんでいるのかを,その経験の固有の意味を含めて,周囲の人々が理解できるように,描き出すことを目指した。分析枠組みとしては,複線径路・等至性モデル(TEM)を用いた。妊娠していることに気づき,医師の診断を受け,中絶手術をし,現在に至るまでの時間経過のなかで,社会的制約やパートナーなどの周囲の人々の影響をうけつつ変化する,中絶経験の多様性を捉えた。彼女たちは,パートナーの辛さに配慮し,また中絶したことによる罪悪感に苛まれ,それゆえ周囲の人々に話すことができず,実質的・精神的な支えを得られにくい辛い状態であった。また,中絶をすることで,元の状態に戻ることを望んでいる人もいた。しかし,時間が経過した後,彼女たちは,妊娠と中絶を,自分の人生における大事な経験として受け容れようと変化していた。