著者
髙野 雅子 大島 輝義 奥田 宏志 山野井 貴浩 武村 政春
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.12-24, 2011 (Released:2019-09-28)
参考文献数
24
被引用文献数
3

DNA複製は,遺伝情報を次世代に伝えるメカニズムである.DNA複製の際のエラーは生物進化へとつながり,新学習指導要領の掲げる「ミクロレベルとマクロレベルの連結」を理解する上で鍵となるものである.本研究では,DNA複製を学ぶ実験教材開発の手始めとして,DNAファイバー法を利用したDNA複製可視化実験の生徒実験としての改良と,SPPを利用した高校生に対する実践を行った.DNAファイバー法とは,培養細胞等から取り出したDNAをスライドグラス上で長く引き伸ばす技術であり,DNA複製反応を蛍光物質で追跡することで,細長いDNAが一方向に複製されていく様子を蛍光顕微鏡で直接見ることができる.改良前のプロトコールは初心者である生徒には煩雑な操作が多かったが,今回の改良により,生徒実験において,すべての班で良好な実験結果を得ることができた.生徒実験の実施後に参加した生徒に対して行った簡単なアンケートでは,生徒がDNA複製可視化実験そのものに対する興味,関心を高く持ち,積極的に実験に参加していたことが明らかとなり,アンケートの自由記述においても肯定的な感想が多かった.改良後のプロトコールは,生徒実験として利用するための時間制限や操作の煩雑さ,初心者でも良好なDNAファイバーを作ることができる点で有効であることがわかったが,生徒が抱く実験後の充足度に関すること,DNA複製の内容に関する理解度向上に関すること等,改善すべき点や,今後詳細な調査を行っていく必要があることも示された.本生徒実験を行うためには試薬や機材等が高価であること,改良したとは言えまだ煩雑で難しい操作が多いことなど課題は多いが,本生徒実験が高等学校の現場へ導入される可能性は低くはない.突然変異や進化に関する教育教材と併用していくことで,新学習指導要領の理念の下で,DNA複製など分子レベルでの現象が生物進化にどのようにつながっていくかを生徒に理解させる有効なツールとなるだろう.