著者
山野井 貴浩 佐藤 綾 古屋 康則
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.285-291, 2018-11-30 (Released:2018-12-05)
参考文献数
22

「種族維持」とは生物は種を維持する, あるいは仲間を増やすために繁殖するという概念であるが, 現代の進化生物学では否定されている概念である。しかしながら, 小中高の理科学習を終えた大学生であっても「種族維持」の認識を有している可能性がある。そこで本研究は, 種族維持の認識を問う質問紙を作成し, 5つの大学に通う大学生629名を対象に質問紙調査を行った。その結果, 半数以上の学生が種族維持の認識を有していること, 高等学校生物の履修や大学における進化の講義はその認識に影響していないことが示唆された。また, 高等学校生物や大学における進化の講義を履修した学生の方が, 血縁選択説や利他行動について知っていると回答した割合は高いという結果が得られた。誤概念を変容させるために, これらの用語を扱う高等学校生物や大学の進化の講義の授業方法を改善していく必要がある。
著者
山野井 貴浩 佐藤 千晴 古屋 康則 大槻 朝
出版者
一般社団法人 日本環境教育学会
雑誌
環境教育 (ISSN:09172866)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.3_75-85, 2015 (Released:2017-10-18)
参考文献数
22

Current science textbooks used in Japanese junior high schools deal with contents about invasive species from foreign countries; however, contents about domestic invasive species are lacking. So, there are few chances for students to understand problems related to domestic invasive species. In this study, we developed a class activity where junior high school students think about biodiversity conservation focusing on the case of the Genji firefly (Luciola cruciata), which is one of the most serious problems among domestic invasion. Results of questionnaires before and after the class suggest two findings. First, the students understood that releasing the Genji firefly without consideration of its genotype led to degeneration of the native population, and that maintenance of the habitats appropriate for the growth phase was effective for conservation. Second, the students realized what they can do to reform or defend their local natural environments.
著者
山野井 貴浩 井澤 優佳 金井 正
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.77-80, 2019-12-21 (Released:2019-12-18)
参考文献数
8

日本遺伝学会は「優性」「劣性」の語の使用が,形質が優れているや劣っているという誤概念をもたらすと指摘し,「優性」を「顕性」に,「劣性」を「潜性」に変更することを2017年9月に提案し,それ以降も用語を変更する方向で社会は動いている.しかしながら,これらの用語を用いて遺伝学習を行っている中学生の認識は十分調査されておらず,どれほどの生徒が誤概念を有しているのかについては不明である.そこで本研究は,栃木県内の公立中学校13校に通う,遺伝学習後の中学校3年生約1000名を対象に,優性劣性の認識に関する質問紙調査を行った.その結果,約7割の回答が優性の形質を「集団中の頻度」を根拠に,約6割の回答が優性の形質を「生存上の有利性」を根拠に選択されていたことが示唆された.またこれらの誤概念は多くの生徒の中で共存していることも明らかとなった.
著者
山野井 貴浩 小川 博久 川島 紀子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.215-223, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
26

中学校理科における進化の学習では,脊椎動物は祖先を共有しながらも進化してきたことを理解させることが求められている。これまで進化のしくみや進化の定義に関する認識調査は中学生対象になされてきたが,祖先共有の認識についての調査は国際的にもほとんど行われていない。そこで本研究は,中学生の祖先共有の認識と他の進化認識との関係を明らかにするため,5つの質問群から成る質問紙を作成し,進化の学習を終えた中学生を対象に質問紙調査を行った。欠損値を含んだ回答を除き,1175名の回答を用いて統計分析を行った。その結果,以下の3点が明らかとなった。1.ヒトとチンパンジーといった哺乳類どうしの祖先共有の認識は強いが,哺乳類と爬虫類および魚類の祖先共有の認識は弱いこと,2.祖先共有の認識と進化の道筋に関する図の選択に明確な関連は見られないこと,3.脊椎動物は祖先を共有しながらも,ヒトに向かって進化していくという誤った進化観が形成されていること。今後,本研究で明らかとなった生徒の認識を踏まえた授業開発がなされることが期待される。
著者
山野井 貴浩 井澤 優佳 金井 正
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
科学教育研究 (ISSN:03864553)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.188-197, 2020 (Released:2020-10-10)
参考文献数
32

In this genome age, citizens need to correctly understand personal genome based on the concepts of dominance and recessiveness; however, it has been reported that most university students understand it inaccurately. Replacement of the relevant terms by alternatives was proposed by the Genetics Society of Japan in 2017 to reduce conceptual misunderstanding. However, the level of such misunderstanding among junior high school students after their introduction to Mendelian genetics is not known. We developed a questionnaire to assess misconceptions regarding dominance and conducted a large-scale survey (n=1004) to assess junior high school students’ comprehension of dominance. We reached three important conclusions from the findings: 1) About 90% of students thought dominant traits to be advantageous for survival and that the most frequent traits in a population result from dominant alleles. 2) The erroneous association of dominance with trait frequency was stronger than the incorrect association of dominance with fitness. 3) Replacing the terms dominance and recessiveness may address student confusion of the ideas of dominance with fitness but may actually increase misconceptions associating dominance with trait frequency. Further studies are needed to reveal the mechanisms underlying these misconceptions before the terms are replaced.
著者
曽我 昌史 山野井 貴浩 土屋 一彬 赤坂 宗光
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

急速な都市化や生活様式の変化に伴い、我々が自然と接する頻度は減少の一途を辿っている。こうした現代社会に蔓延する「自然離れ」は「経験の絶滅」と呼ばれ、保全生態学や公衆衛生など複数の学術分野で重要な問題として認識されつつある。本研究では、経験の絶滅の実態(発生・伝播プロセスや人と環境保全に与える負の影響)を全国規模で把握するとともに、将来求められる緩和策を提案することを目標とする。
著者
山野井 貴浩 佐倉 統
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 36 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.285-286, 2012-08-27 (Released:2018-05-16)

本研究では,進化論の学習機会および創造論を知る機会がほとんどなかったと考えられる文系大学生を対象に進化論と創造論の両方を紹介する講義を行い,進化論の方が科学的であると考えられたかどうかを講義前後アンケートによって明らかにすることを目的とした。その結果,事前に科学的な考え方に関する講義を行っていたとしても,創造論を知ることで進化論への支持率が高くなるとは限らず,逆に,創造論への支持率が高まってしまう可能性があることが示唆された。
著者
山野井 貴浩 伊藤 哲章
出版者
一般社団法人 日本環境教育学会
雑誌
環境教育 (ISSN:09172866)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1_33-39, 2021 (Released:2021-08-24)
参考文献数
24
被引用文献数
1

To understand the level of Entomophobia in nursery teachers, we undertook a questionnaire survey of nursery teachers, students taking a nursery teacher-training course, and ordinary women. Results indicated that nursery teachers tend to like arthropods and can look at photographs and illustrations of them more comfortably when compared to the students and ordinary women. An age-based analysis showed that nursery teachers in their 20s–50s were able to view photographs and illustrations of arthropods with less resistance than students and ordinary women of the same generation. There was no significant difference between participants in the 20–40 age range, but nursery teachers in their 50s showed greater preference to arthropods than university students and ordinary women. As the degree of preference for arthropods had a stronger influence on their confidence in arthropod-related childcare rather than the degree to which they could look at arthropods, it is necessary to develop training to encourage nursery teachers to like arthropods through experiences of seeing, touching, collecting and rearing such creatures.
著者
武村 政春 山野井 貴浩
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
科学教育研究 (ISSN:03864553)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.292-307, 2012-09-10 (Released:2017-06-30)
参考文献数
46

Most high school and university students are interested in fictitious organisms that have featured in novels, movies, on television, and other media. In several countries, teaching trials using various fictitious organisms have been introduced in biology educational courses. For example, self-study of fictitious organisms during undergraduate courses, and an "origami bird" teaching material for evolution education have been reported up to date. "Caminalcules", fictitious organisms for teaching taxonomy and evolution, and BioLogica^<TM> simulation software for learning genetics have also been thought to be effective educational materials. After discussing the effects of these trials using fictitious organisms for Japanese biology education, we assess the potential of trials using fictitious organisms for future Japanese biology education.
著者
山野井 貴浩 横内 健太
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.485-495, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
32

カブトムシは人気のある昆虫であるが,児童,教員志望学生,小学校教員の多くはその体のつくりを正しく理解できていないことが報告されている。そこで,本研究は昆虫の体節構造の進化を扱うことで,カブトムシの体のつくりを理解させる授業を開発した。また,本授業の副次的な効果として,節足動物の体のつくりや進化についての理解も深められることを期待した。中学生対象の授業実践の結果,授業後にはカブトムシの体のつくりに関して適切なイラストを選択する生徒の割合が有意に増加した。また,節足動物の体のつくりの特徴に関して,授業を通して「1つの節から1対のあしが生えていること」や「(進化の過程で)体節が融合したものがいること」の理解が深まったことが示唆された。一方で,授業後には「頭・胸・腹に分かれた体」や「胸からあし」などの昆虫の特徴を,節足動物の特徴として記述する生徒が増加した。地球上の既知種の約半分を占める節足動物を題材とした進化や分類に関する教材の開発が今後も期待される。
著者
髙野 雅子 大島 輝義 奥田 宏志 山野井 貴浩 武村 政春
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.12-24, 2011 (Released:2019-09-28)
参考文献数
24
被引用文献数
3

DNA複製は,遺伝情報を次世代に伝えるメカニズムである.DNA複製の際のエラーは生物進化へとつながり,新学習指導要領の掲げる「ミクロレベルとマクロレベルの連結」を理解する上で鍵となるものである.本研究では,DNA複製を学ぶ実験教材開発の手始めとして,DNAファイバー法を利用したDNA複製可視化実験の生徒実験としての改良と,SPPを利用した高校生に対する実践を行った.DNAファイバー法とは,培養細胞等から取り出したDNAをスライドグラス上で長く引き伸ばす技術であり,DNA複製反応を蛍光物質で追跡することで,細長いDNAが一方向に複製されていく様子を蛍光顕微鏡で直接見ることができる.改良前のプロトコールは初心者である生徒には煩雑な操作が多かったが,今回の改良により,生徒実験において,すべての班で良好な実験結果を得ることができた.生徒実験の実施後に参加した生徒に対して行った簡単なアンケートでは,生徒がDNA複製可視化実験そのものに対する興味,関心を高く持ち,積極的に実験に参加していたことが明らかとなり,アンケートの自由記述においても肯定的な感想が多かった.改良後のプロトコールは,生徒実験として利用するための時間制限や操作の煩雑さ,初心者でも良好なDNAファイバーを作ることができる点で有効であることがわかったが,生徒が抱く実験後の充足度に関すること,DNA複製の内容に関する理解度向上に関すること等,改善すべき点や,今後詳細な調査を行っていく必要があることも示された.本生徒実験を行うためには試薬や機材等が高価であること,改良したとは言えまだ煩雑で難しい操作が多いことなど課題は多いが,本生徒実験が高等学校の現場へ導入される可能性は低くはない.突然変異や進化に関する教育教材と併用していくことで,新学習指導要領の理念の下で,DNA複製など分子レベルでの現象が生物進化にどのようにつながっていくかを生徒に理解させる有効なツールとなるだろう.
著者
谷津 潤 山野井 貴浩
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.63-70, 2016-07-12 (Released:2016-08-09)
参考文献数
18
被引用文献数
1

近年, 生物の授業において, DNA抽出実験が, 頻繁に実施されるようになった. しかし, 現在実施されている実験形式では, 抽出物がDNAである(DNAを含んでいる)ことを納得できない生徒がいると指摘されており, 試薬を用いて抽出物がDNAであることを確かめる過程を導入することが必要と言える. そこで, 本研究では, 従来のDNA抽出実験の操作に, 対照実験を伴う検証過程を導入し, その導入が抽出物はDNAであると納得することに繋がるかどうかを明らかにすることを目的とした. 質問紙調査の結果, 検証前では抽出物がDNAであると納得できなかった生徒が全体の約1/3を占めたが, 検証後では, それらの生徒も, 抽出物がDNAであると納得したことから, DNA抽出実験における試薬を用いた検出の重要性が明らかになった. その際, 特に対照実験を伴う方がより生徒の納得につながることが明らかになった.