著者
西川 洋史
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.139-145, 2022 (Released:2022-12-20)
参考文献数
13

透明骨格標本は製作過程で微細な骨を紛失することはなく,立体構造も本来の状態で保存されるため骨格の観察をするのに適している.しかし,その製作には法律上毒物や劇物の指定を受けている薬品を必要とする.また脱脂で使うキシレンや組織固定用の酢酸は臭気が強く,生徒が気分を悪くすることも多いため,換気を十分に行わなければならない.このような安心安全に関する配慮や手間は透明骨格標本の作製を現場で実施する上で障壁となる.そこで本研究では劇物・毒物を使用せずに,透明骨格標本を作製する方法を検討した.その結果,70%アルコール固定後のキンギョを30°Cの洗濯洗剤に10日間浸漬し,30 μg/mLアリザリンレッドS水溶液で2時間染色後,グリセリンに移し替えるだけで脊椎骨や肋骨をはじめとする内部の細かな硬骨を観察できる標本ができることが分かった.授業実践ではキンギョ以外の十数種類の魚の標本を生徒に作らせることができ,多くの魚種で本手法が適用できることが示された.アリザリンレッドS以外に必要となる洗濯洗剤とグリセリンは,市販品であることから容易に入手することができる.本研究の成果は,授業や探究活動での透明骨格標本の導入を加速するだろう.
著者
馬場 典子 片山 隆志 香西 武 米澤 義彦
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.168-175, 2013 (Released:2019-09-28)
参考文献数
12
被引用文献数
2

中学校新学習指導要領では,理科の第2分野に新しく「遺伝の規則性と遺伝子」の内容が加えられ, 生徒実験として,食塩水と台所用洗剤を用いた簡便法による「DNA の抽出」が提案されている.本研究は,中学校における DNA の抽出実験について,これまでに報告されている材料と方法を再検討し, 中学校でも実施可能な DNA の抽出実験の材料と方法を提案することを目的として行われた.また,報告されている簡便法によって抽出されたものが DNA であることを確認するために,抽出物のUV吸収スペクトルを測定し,市販の DNA 抽出キットによって抽出した DNA と比較した.その結果,DNA の抽出液として,4%食塩水と5%SDS溶液の混合液(24:1)を用いること,材料としてはブロッコリーが適していることが明らかになった.また,抽出物が DNA であるか否かについてはジフェニルアミン法によって確認できることを確かめた.さらに,改良した方法を用いて行った附属中学校での授業実践をもとに,教科書の記述内容の変更を提案した.
著者
岩西 哲 高田 兼太
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.83-90, 2022 (Released:2022-08-23)
参考文献数
26

本論では,自然史系博物館の来館者を対象としたアンケートから明らかとなった昆虫に対する好悪の傾向や,それらと昆虫採集・飼育経験との関係などについて報告した.昆虫に対する好悪は性別や年齢により違いが見られた他,昆虫の採集や飼育経験と関連していることが明らかとなった.これらの結果から,昆虫嫌いを軽減し,昆虫の重要性について理解を広めるためには,学校・保育の場や家庭において採集や飼育といった昆虫に触れ合う体験の機会を促進すること,それらの機会を通して,「好きな昆虫」のイメージを具体的に持たせることが重要となることが示唆された.
著者
園山 博 渥美 茂明
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.158-166, 2018 (Released:2018-10-29)
参考文献数
14
被引用文献数
2

高等学校学習指導要領の改訂により,高校生物では,多くの分子生物学的現象を扱うようになった.その中でも,PCR法は分子生物学研究の基盤技術であり,その原理の理解は,他の技術の理解や習得に不可欠である.しかし,教科書でのPCR法の説明では,プライマーはどのようなものか,鋳型DNAにどのように結合するかの説明が不十分であり,プライマーを両端として伸長される新生鎖がPCR法で生じる増幅領域となる理由を生徒が深く理解することができないと考えられる.そこで,プライマーDNAが鋳型DNAに結合することを理解するのに必要な解説と図を含んだワークシートを作成した.フォワードプライマーとリバースプライマーのそれぞれが,鋳型DNAに結合する位置と,各プライマーDNAが結合する向きおよび新生鎖の伸長方向を学ぶ内容である.このワークシートを利用し,増幅されるDNA断片の大きさを測る実験を行うことと,増幅されるDNA断片の領域を遺伝子の塩基配列から探す課題とを併用した授業計画を立案した.授業後,65%の生徒がプライマーDNAにより増幅される鋳型DNAの領域を正しく答えることができた.作成したワークシートによる学習が,プライマーの働きを理解するのに有効であったためと考えられる.
著者
原村 隆司 田畑 諒一 宝田 一輝
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.25-31, 2011 (Released:2019-09-28)
参考文献数
29

For an elementary school children, observation of animal behavior would be important to understand life history of animals. In the present study, we developed teaching materials for the understanding of respiration, especially differences between branchial and pulmonary respirations. Tadpoles of the American bull frog (Rana catesbeiana) generally take dissolved oxygen from water by branchial respiration and through skin. However, if dissolved oxygen in water is low, they sometimes perform air breathing with pulmonary respiration. To understand the change from branchial respiration to pulmonary respiration in tadpoles, we manipulated conditions (abiotic conditions [water pressure, oxygen concentration, and carbon dioxide concentration], biotic conditions [quantity of motion, population density, and developmental stage]) of tank where tadpoles were introduced, and counted the number of air breathing. We also compared the number of air breathing among different developmental stages of tadpoles, because it is supposed that tadpoles during metamorphosis would increase the dependency on pulmonary respiration. The number of air breathing behavior of tadpoles clearly increased when the dissolved carbon dioxide was increased. This indicates that when dissolved oxygen in water is low, brachial respiration is not useful and tadpoles use pulmonary respiration to take the oxygen from air. As the developmental stage prodeeded, the number of air breathing behavior increased. This would reflect physiological transitions during the metamorphosis in which lungs are developing and gills are disappearing. Air breathing behavior of tadpoles is easily observed. By making this experiment with tadpoles, elementary school children would understand the respiration of animals. We emphasized that observation and experiment of animal behavior would be important as teaching materials at elementary school.
著者
片山 豪 林 秀則 高井 和幸 遠藤 弥重太
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.165-178, 2012 (Released:2019-09-28)
参考文献数
8
被引用文献数
2

高等学校現行教育課程では,生命科学の中心教義であるセントラルドグマに関しては,生物学の基礎課程である「生物Ⅰ」ではなく,応用課程の「生物Ⅱ」を選択した一部の生徒が学習するだけである.来年度から実施される教育課程では,多くの生徒が1,2年次に履修する「生物基礎」の最初の章で学習することになる.そこで,新学習指導要領に適した実験を考案するために,コムギ胚芽を原料とする無細胞タンパク質合成法に注目し,セントラルドグマを可視化する安全で簡便な教育教材の開発を試みた.セントラルドグマとは,DNAの遺伝情報がmRNAに転写され,これを鋳型としてアミノ酸を連結して遺伝子情報をタンパク質に翻訳する過程のことである.これまでの教育教材としては大腸菌を培養する組換え法が用いられてきたが,本教材では生細胞を用いることなく試験管の中で,転写および翻訳産物を呈色や蛍光発色で可視化し直接的に観察することを特徴とする.遺伝子発現の転写は,コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系発現専用ベクター(pEU)に組み込んだ緑色蛍光タンパク質遺伝子gfpを鋳型として,SP6ポリメラーゼを用いて試験管内で行われた.mRNAの合成は,アガロースに包埋した転写反応液をメチルグリーンピロニンによる染色または,RiboGreen試薬による蛍光染色によって確認することができた.翻訳は,合成したmRNAを鋳型として,コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いたGFPの合成により行われた.GFPの合成はブラックライトによる励起による緑色蛍光発光から容易に確認できた.このように,セントラルドグマを可視化する簡便な実験教材を考案することできた.そこで,現行教育課程の「生物Ⅱ」を履修する生徒を対象に本教材を用いた授業を試みたところ,セントラルドグマに関する高い理解度が得られることを確認することができた. 以上の結果から,バイオハザードと生命倫理問題をもクリアーした簡便な本実験法が,中心教義教育用の新しい教育教材として有用であると考えた.
著者
西川 洋史
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.23-28, 2020 (Released:2021-04-21)
参考文献数
11
被引用文献数
2

研究用高純度グリセロールは透明骨格標本作製時において透明化や保存のために必要である.しかし,学校教育現場では高いコストとなる.本研究ではグリセロールの代わりに家庭用食器洗剤を用いて透明骨格標本の作製を試みた.ミナミメダカ(Oryzais latipes)を10%ホルマリンに入れて室温下一晩の固定を行った後,各濃度の水酸化カリウムを溶解した5種類の食器洗剤に移し,35°Cで2週間インキュベートした.その結果,水酸化カリウムの濃度に応じて透明化が促進され,数種類の洗剤では脊椎骨を明確に観察することができた.次に,ホルマリン固定後にアリザリンレッドSで一晩染色した標本を同様に洗剤に漬けたところ,界面活性剤濃度が高い洗剤において硬骨染色を保った状態での透明化を確認した.食器用洗剤はグリセロールに比べると安価であり,ゆえに学校教育現場での透明骨格標本の活用が促されると思われる.
著者
米澤 義彦 細川 威典 香西 武
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.148-155, 2019 (Released:2019-12-16)
参考文献数
36
被引用文献数
1

小学校第6学年理科における「水の通り道」の観察実験に使用する「色水」について,小学校や中学校の教科書に例示されている切り花着色剤,食用赤色102号および赤インキの濃度と処理時間について,根のついたホウセンカを材料として再検討を行った.その結果,切り花着色剤と食用赤色102号の「色水」では,いずれも15~30分程度で「色水」が葉に到達することがわかった.また,赤インキの10倍希釈液では約1時間で,50倍希釈液では約2時間で葉まで「色水」が到達した.これらのことから,「水の通り道」の観察実験では,「色水」の種類と濃度を選択することによって,それぞれの学校の時間割に応じて授業が展開できることが示された.
著者
中川 繭 高橋 香穂理
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.58-65, 2019 (Released:2019-08-14)
参考文献数
33

花器官ABCモデルは花器官がホメオティック変異を起こしたシロイヌナズナとキンギョソウの変異体の表現型の解析から提唱された,被子植物の花を構成する4つの花器官(がく片,花弁,雄しべ,心皮)の形成が3つの遺伝子グループによって制御されるという仮説である.花芽分裂組織を同心円状に4つの領域に分け(外側から領域1,2,3,4とする),花器官を形成する3つの遺伝子グループが隣接する2つの同心円領域で働くとする.領域1と2で働く遺伝子をクラスA遺伝子,領域2と3で働く遺伝子をクラスB遺伝子,領域3と4で働く遺伝子をクラスC遺伝子とし,クラスA遺伝子のみが働くとがく片が形成され,クラスA遺伝子とクラスB遺伝子が働くと花弁が,クラスB遺伝子とクラスC遺伝子が働くと雄しべが,クラスC遺伝子のみが働くと心皮が形成される.また,クラスA遺伝子とクラスC遺伝子は互いの働きを抑制し,クラスC遺伝子は花の有限性の維持にも働く.2009年の高等学校学習指導要領に対応したすべての高校生物の教科書でABCモデルは取り上げられ,仮説の理解を助けることを目的としてクラスA, B, C遺伝子が欠損した変異体の花の構造図が掲載されている.これらの花の構造図は花の縦断面図と花式図と呼ばれる横断面図の両方が取り入られている.仮説を提唱した論文には変異体花の縦断面図が記載されているが,花式図は適切な資料が存在しない.しかし,変異体の表現型から仮説の構築を試みる観察実験の材料としてABCモデルを用いる場合,縦断面図より花式図の方が描きやすく,花の同心円領域の把握も容易である.そこで,観察実験の手引きとなることを目的としてシロイヌナズナのクラスA, B, C遺伝子の機能が欠損した変異体と二重三重変異体の花式図を作成した.さらに,シロイヌナズナの結果を踏まえ,思考実験の材料として概念的な5弁花1心皮花のクラスA, B, C遺伝子の機能欠損体の花式図の作成を試みた.
著者
佐藤 たまき
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.130-137, 2017 (Released:2018-10-29)
参考文献数
15

本稿では古生物学という学問と,絶滅した中生代の化石海生爬虫類である首長竜について解説した.化石の研究は古生物学と呼ばれ,考古学と間違われやすいが,地学と生物学の境界に位置しており,博物館との関わりも深い.古生物学に関連するトピックは小学校から高等学校までの様々な学年の理科教科書に登場し,高校教科書では地学と生物学の両方にまたがっている.首長竜は恐竜であると思われがちであるが,系統学的な定義でも骨の形態でも異なる別個の分類群である.また,福島県で発見された首長竜フタバスズキリュウを用いて,学名や記載論文の意義についても解説した.
著者
鎌田 直樹
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.76-81, 2009 (Released:2019-09-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

It is important for students to study the skeletal structure for understanding morphology, function, classification and development of vertebrate. However, almost all junior high schools have few skeletal specimens and there are few guides to make them for junior high school teachers. In this study, I tried to show the effective methods to make the skeletal specimens. Animals were classified into three groups of “small” (less than 500 g body weight), “medium” (between 500 g and 1.0 kg) and “large” (more than 1.0 kg) for convenience. The protease method (PM) and the detergent for pipe drainage method (DPDM) were applied to each group. Although PM was able to remove soft tissues within a short period (2-9 hours) in “large”, the bones tended to be deteriorated. It should be noted that the preparation of specimens with PM was difficult in “small”. However, ultimately, soft tissue could not be completely removed from “small” and “large” with DPDM. In consequence, it was suggested that PM was useful for “large”, whereas DPDM was suitable for “small”. For “medium”, the parallel method, in which the vertebral and extremities parts were treated with PM, and the costal and foot parts were treated with DPDM, was suitable.
著者
東海林 拓郎
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.122-132, 2023 (Released:2023-08-10)
参考文献数
15

「生物基礎」の免疫分野は,実験教材の不足などを理由に「教えづらい分野」の一つとして知られている.本研究は,「生物基礎」において,実験を伴わずに免疫システム(体液性免疫と細胞性免疫)を学ぶことができる教材の開発と評価を目的とした.開発教材は,免疫システムの各プロセスがイラストで描かれたものであり,生徒はペアとなってGoogle Jamboard上でこれらを並べ替え,その結果をクラス内で発表した.知識の定着や意欲・態度を測るためのアンケートを実施し,開発教材を用いずに講義形式で学習したクラスと比較した.開発教材で学習した生徒は主体的に授業へ参加できており,理解の程度は,講座形式で学習した生徒のスコアより高かった.これらの実施効果は,アニメのキャラクターを用いた教材やGoogle Jamboard上での並べ替えによって導かれたと考えられた.一方で,イラストの意図の解釈に苦慮する生徒への対応などの課題も見られた.
著者
松森 靖夫
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.328-335, 1994 (Released:2023-03-07)
参考文献数
16
被引用文献数
1

In this study, the present author attempted to clarify children’s naive concepts of the embryonic development of killifish, a topic which has seldom been attempted in the past.The author tried to (1) examine whether the children had some naive concepts of the embryonic development of killifish or not before they were taught about it in elementary school science, (2) categorize the children’s naive concepts of this, if any concepts had been identified by (1), and (3) based upon these categories, analyze and consider each child’s naive concept of the development of Killifish.His findings include: (1) children who had not learned about the development of killifish yet already held some naive concepts of it, (2) the children’s naive concepts of this could be divided into four categories, (3) more than 60% of the children exmined in the fourth grade showed awareness of some concepts of epigensis, but none of them had a firm grasp of the concept, and (4) some concepts of the development of animals similar to those held by the ancient Greeks (including Aristotle) were found among the children.
著者
岩本 夏実 田川 一希
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.167-172, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
22

保育者が,幼児と動物との関わりを支援する際の特徴的な言葉かけとして,動物に対して「さん」「くん」「ちゃん」といった敬称を付けて呼ぶ表現(敬称表現)が挙げられる.保育者83名に対する質問紙調査の結果,幼児と8種類の動物との3種類の関わりの場面について,敬称表現が用いられる場合は60.5%であった.幼児が動物と仲良く遊んでいる場面,動物をいじめている場面では,幼児が動物の生態に興味を持っている場面と比較して,敬称表現が用いられる頻度が高かった.敬称表現の使用のねらいについて,保育者は,幼児の生命尊重や親しみの感情,思いやりの気持ちの育ちを意識していた.
著者
倉林 正 武村 政春
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.114-121, 2017 (Released:2018-10-29)
参考文献数
14
被引用文献数
2

本研究は,安価で簡単に自作できる簡易電気泳動装置を開発するとともに,電気泳動実験全体の費用を軽減させる方法を考え,授業で実施しやすくする安価な電気泳動実験を開発することを目的とした.本研究では,「弁当用シリコーン容器」,「鉛筆の芯」,「乾電池」,「リード線」を材料に安価で簡単に自作できる簡易電気泳動装置を開発することができた.さらに,使用する試料やゲル,結果確認の方法を工夫することによって,電気泳動実験全体の費用も軽減することができた.授業実践では,生徒たちもスムーズに実験操作を行うことができ,適切な結果を得ることができた.また,生物教員を対象とした質問紙調査では,多数の教員から本研究で開発した電気泳動実験を授業で実施できるという回答が得られた.以上のことから,本研究は,高校生物等の授業で電気泳動実験を実施しやすくするために有効であることが明らかとなった.
著者
飯島 和子 橋本 健一
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.80-88, 2020 (Released:2020-08-07)
参考文献数
32

高等学校「生物基礎」では「生物の多様性と生態系」の章で植生の遷移について学習する.しかし,実際に同一場所で植生の遷移の過程を観察し続けることは長期間を要することから,教育現場での実践は困難である.著者らは,1987年に千葉県立衛生短期大学(当時,現千葉県立保健医療大学,千葉県千葉市)キャンパス内の一画に裸地化した調査区画(1 m × 2 m,2面)を設け,30年間にわたり全く人手を加えず二次遷移の過程を追跡・調査した.裸地化1年目(1987年)にはスズメガヤ,メヒシバなどの夏型1年生草本が優占した.これらの植物は埋土種子由来と考えられる.2年目にはオオアレチノギク,ヒメムカシヨモギなど冬型1年生草本が優占種となった.これらの植物は風散布型の種子を持つので調査区画外から飛来したものと考えられ,冬は耐陰性の強いロゼット葉で越冬するため,2年目には夏型1年生草本に先駆けて成長するようになったと考えられる.3年目からはチガヤ,ヨシなどの多年生草本が優占種となり,その状態がしばらく続いた.これらの植物は地下茎での越冬が可能なので,春の初期成長が速いため,優占種の状態が継続したと思われる.10年目になると,ヨシ群落の下層部にトウネズミモチ,オオシマザクラなどの木本類の成長が認められ,15年目には,これらの木本類が優占種となった.さらに,20~30年目になると,トウネズミモチ,オオシマザクラがさらに成長して調査区画全体を覆うようになったが,林床部には,暖温帯の海岸地域での極相林の構成種であるタブノキやクスノキなどの陰樹の幼植物が多数出現するようになった.このまま遷移が進行すれば,やがて陰樹への交代が見られ極相を構成する樹種が生育する状態に達するものと思われる.そこで,今回の調査結果を,身近な場所で実際に見られた二次遷移の実例として,「生物基礎」での資料としての活用を提案したい.活用にあたっては,遷移の現象面のみならず,草本段階の遷移の要因として越冬時の生活型の違いが大きく関わっていることなど,生徒に考えさせる素材としても提供できるものと思われる.
著者
内山 智枝子 武村 政春
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.167-172, 2018 (Released:2018-10-29)
参考文献数
8

現行の高等学校学習指導要領における生物教育では,高校生の9割以上が履修する「生物基礎」において,セントラルドグマの概念の理解が求められている.セントラルドグマのメカニズムを説明するためには,DNAとRNAの役割の違いを区別することが不可欠である.しかし,大学生を対象とした国内外の調査から,「複製」と「転写」に関する混同が報告され,高校生を対象とした調査でも,DNAとRNAの構造や構成成分の概念構築が曖昧であるとの問題提起がなされている.そこで本研究では,最終的な目標であるセントラルドグマの理解に不可欠な「複製」と「転写」におけるDNAとRNAの役割を,高校生が区別しているかどうか現状を把握し,その原因を追究することを目的として,高校1年生「生物基礎」履修者を対象に質問紙調査を実施した.質問紙調査の結果,「複製」と「転写」におけるDNAとRNAの役割を区別していない生徒の存在と,どのように混同しているのかその実態が明らかになり,記号や模式図,岡崎フラグメント,相補的結合が起こる鎖の数,「複製」や「転写」の必要性に対する誤った理解が,混同の要因となっていることが示唆された.このことから,提示するメカニズムの内容と使用する記号や模式図を生徒の実態に合わせて検討すること,「複製」や「転写」の必要性を強調し相補的結合に関する知識の転化を促すように学習環境や授業デザインを工夫することが,生徒の混同の解決につながるのではないかと考える.
著者
井上 陽子 大友 麻子 高橋 千果 森屋 宏美 大貫 優子 谷口 泰史 和泉 俊一郎 秦野 伸二
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.98-113, 2017 (Released:2018-10-29)
参考文献数
27

現代社会では,犯罪捜査や事故などの犠牲者の身元確認や親子鑑定などの個人のもつ遺伝の情報が活用されることが多くなってきている.また,インターネット上には個人の「遺伝子検査」を行うサイトが掲載されている.このような社会環境の中で,高校生が「遺伝子」についてより深い理解を得るために学習機会を持つことはきわめて重要と思われるが,設備や試薬などの経費の面で高校において体験的な授業実践を行うことは容易ではない.そこで,筆者らは,授業内容は高校側が立案し,設備や試薬は大学側が負担するという高大連携によって「遺伝子」を扱う実験を開発し,授業実践を行った.扱った「遺伝子」は広く動物界の生物に保存されている転写調節因子の一つであるSOX2遺伝子で,ヒトとゼブラフィッシュを実験材料とした.また,遺伝子解析因子の基本的な技術を体験する意味で,「DNAの抽出」,「PCRによる特定の遺伝子領域の増幅」,「塩基配列の異同を調べるための制限酵素処理」及び「アガロースゲル電気泳動」を含む内容とした.その結果,高大連携授業に参加した高校生は,それぞれの実験が持つ意味や結果の解釈について,実験前より実験後においてより深い理解を示し,対照実験の意義を理解するなど「科学的な探究能力」の育成について,効果があることが示された.
著者
辻 彰洋
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3-4, pp.221-225, 1995 (Released:2022-12-23)
参考文献数
2

It is important for secondary level students to understand the skeleton structure for studying the classification and development of vertebrates. In this parer, I reported a double staining technique which was modified for making skeletal specimens of vertebrates. The usefulness of the skeletal specimens for biological education was also discussed.