- 著者
-
飯島 和子
橋本 健一
- 出版者
- 一般社団法人 日本生物教育学会
- 雑誌
- 生物教育 (ISSN:0287119X)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.2, pp.80-88, 2020 (Released:2020-08-07)
- 参考文献数
- 32
高等学校「生物基礎」では「生物の多様性と生態系」の章で植生の遷移について学習する.しかし,実際に同一場所で植生の遷移の過程を観察し続けることは長期間を要することから,教育現場での実践は困難である.著者らは,1987年に千葉県立衛生短期大学(当時,現千葉県立保健医療大学,千葉県千葉市)キャンパス内の一画に裸地化した調査区画(1 m × 2 m,2面)を設け,30年間にわたり全く人手を加えず二次遷移の過程を追跡・調査した.裸地化1年目(1987年)にはスズメガヤ,メヒシバなどの夏型1年生草本が優占した.これらの植物は埋土種子由来と考えられる.2年目にはオオアレチノギク,ヒメムカシヨモギなど冬型1年生草本が優占種となった.これらの植物は風散布型の種子を持つので調査区画外から飛来したものと考えられ,冬は耐陰性の強いロゼット葉で越冬するため,2年目には夏型1年生草本に先駆けて成長するようになったと考えられる.3年目からはチガヤ,ヨシなどの多年生草本が優占種となり,その状態がしばらく続いた.これらの植物は地下茎での越冬が可能なので,春の初期成長が速いため,優占種の状態が継続したと思われる.10年目になると,ヨシ群落の下層部にトウネズミモチ,オオシマザクラなどの木本類の成長が認められ,15年目には,これらの木本類が優占種となった.さらに,20~30年目になると,トウネズミモチ,オオシマザクラがさらに成長して調査区画全体を覆うようになったが,林床部には,暖温帯の海岸地域での極相林の構成種であるタブノキやクスノキなどの陰樹の幼植物が多数出現するようになった.このまま遷移が進行すれば,やがて陰樹への交代が見られ極相を構成する樹種が生育する状態に達するものと思われる.そこで,今回の調査結果を,身近な場所で実際に見られた二次遷移の実例として,「生物基礎」での資料としての活用を提案したい.活用にあたっては,遷移の現象面のみならず,草本段階の遷移の要因として越冬時の生活型の違いが大きく関わっていることなど,生徒に考えさせる素材としても提供できるものと思われる.