- 著者
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鳥山 平三
Heizo TORIYAMA
- 雑誌
- 大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.125-142, 2009-01-31
我が国の臨床心理学界の第一人者で,長く斯界(しかい)の先頭に立って導いて来られた河合 隼雄先生が亡くなった。先生は 20 世紀最後の「老賢者」の一人と言ってもよい。筆者は,先生に特に 近い存在ではなかったが,それでも 40 年に及ぶ浅からぬ交流があった。その出会し、から,折々のエピ ソードを追想することにより,河合先生を偲ぶよすがとしたく思う。筆者の個人的な臨床心理学研鐙 の経験の織りなす,河合先生の周囲の人との交流の中に,河合先生を慕う女性と男性のさまざまな人 間模様が興味深く観察された。そこで,河合先生もよく触れておられたユング心理学の「元型」の中 でも,現代における「老賢者」の失墜(しつつしリ,そして,否定的な意味での「太母」の篭絡(ろう らく)について,見解を述べたく思う。時代は「老賢者」の英知から「太母」の呪縛へと移り行く現 代である。