著者
鹿嶋 洋
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.239-266, 2015 (Released:2018-04-04)

本稿は,大分県の半導体産業集積地域の特質を解明するため,その形成過程と企業間連関の空間構造を分析した。当県の半導体産業は,1970年の東芝大分工場の進出を端緒とする。東芝は進出当初から人件費削減のため労働集約的な工程を担う地元企業群を育成した。その後,生産の自動化とともに製造装置関連の地元機械加工業者や後工程専門の東芝子会社が協力企業となり,1990年代中期までに東芝の影響力の強い産業集積が確立された。しかしこの時点では県内の集積は技術的多様性を欠き,専門的な部門を県外,とくに京浜地域に依存した。その後,関連企業の増加と技術的多様性の高まり,東芝の影響力低下に伴う地元企業の自立化と企業間連関の広域化,後工程企業の淘汰・再編が進行した結果,当県の半導体産業集積は,局地的生産体系から,次第に地方新興集積へと移行しつつある。以上より,産業集積の実態解明に際し空間的重層性への留意が必要であることが示唆された。