著者
黄 錚 外岡 豊 王 青躍 坂本 和彦
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.348-361, 2009-09-30
参考文献数
30

都市大気汚染問題は古くて新しい課題である。多くの先進国の都市が経済発展の過程で二酸化硫黄等による厳しい大気汚染を経験してそれらの汚染物質排出量が顕著に削減されていったが,近年自動車による都市交通量の増加で窒素酸化物等による新しい都市大気汚染が問題になっている。一方,発展途上国は急速な都市化で短期間の間に先進国が今まで経験した様々な大気環境問題に対処しなければならなくなっている。発展途上国が経済発展をさせながら都市大気環境を同時に改善しうる可能性を見出すために,先進国の都市大気環境の汚染対策史からどのような汚染対策を学ぶべきかという立場から,本稿では環境クズネッツ曲線を用いて大気汚染物質である二酸化硫黄と二酸化窒素を中心に,2008年のオリンピック開催地の中国北京の大気汚染対策と戦略に注目し,オリンピック開催経験のある先進国の都市との比較を試みた。その結果,各都市では二酸化硫黄対策では環境クズネッツ曲線の変化が見られたが,二酸化窒素の場合,先進国では対策の取り遅れのため低減傾向が見られなかった。一方,後発的な都市である北京では,先進国で実施中の対策を早い段階で取り入れたことによると推定される削減効果が見られた。これらの結果は,環境クズネッツ曲線が当てはまるという確証は得られなかったが,それを前提とする解析では,発展途上国は先進国の経験から学び,先進国で現在実施中のより効果的な環境対策を積極的に実施することによって早い段階で環境改善の方向に向かうことができるという可能性を示唆していた。