著者
近藤 敏仁 北島 信行
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.399-407, 2007-09-28
参考文献数
28

土壌汚染対策法の施行(平成15年2月)をきっかけとして土壌汚染の調査事例件数が大きく増加し,これに伴って環境基準超過事例の件数も年々増えてきている。多様化する汚染サイトの諸条件にあわせて,浄化手法の選択肢も多岐にわたることが望ましい。我々は,低コスト・低環境負荷型の土壌汚染浄化の1手法として,ファイトレメディエーションに注目し,技術開発と実汚染サイトへの適用に取り組んでいる。重金属による汚染土壌には,汚染物質を植物に吸収,蓄積させて,蓄積させた後の植物体を収穫することにより土壌を浄化するファイトエクストラクションが有効である。 平成18年11月に発表された環境省の調査結果によると,ヒ素はわが国において基準超過件数が鉛についで多い元素である(累積)。また自然由来の汚染事例が多く報告されており,ファイトレメディエーションの適用が期待される汚染物質である。 2001年にイノモトソウ科のシダ植物であるモエジマシダについて,ヒ素を吸収・蓄積する能力があることが報告された。筆者らは,室内試験実サイトでの栽培試験により,モエジマシダがヒ素浄化用の植物として有望であるものと判断した。 モエジマシダの持つヒ素汚染除去能力は極めて高いものであるが,実汚染サイトにおける浄化効率は土壌条件,とりわけ汚染土壌に含まれるヒ素の化学形態に大きく左右されると考えられることから,トリータビリティ試験の検討も進めている。 本報告では,モエジマシダを用いたヒ素汚染土壌のファイトレメディエーションに対する筆者らの取り組みを紹介し,今後の展望を述べる。
著者
康 峪梅 大谷 真菜美 櫻井 克年
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.329-335, 2009-09-30
参考文献数
16
被引用文献数
1

クロム(Cr),銅(Cu)およびヒ素(As)を主成分とした木材防腐剤CCAは日本で40年ほど前から使用されてきた。現在その廃材の大量排出が問題となっている。しかし,CCA廃材の非適切な扱いによって土壌に混入したCCAの挙動や周辺環境への影響についてはほとんど報告されていない。本研究では,CCAが混入した土壌のCr,CuおよびAs含量と形態,さらにその土壌に生育していた植物を分析し,CCAの土壌環境中での挙動について検討した。<BR>高知県内にあるビニールハウス解体後のCCA処理廃材置き場で土壌と植物を,またこの地点から約20 m離れた自然林で対照試料の土壌と植物を採取した。土壌の全Cr,Cu,As含量,塩酸可溶性含量を測定し,さらに逐次抽出法を用いて三元素を分画し定量した。植物については全Cr,Cu,As含有率を測定した。<BR>廃材置き場内で採取したすべての土壌は対照試料より高いCr,CuおよびAs含量を示した。その内廃材焼却跡地で採取した土壌は全Cr,CuとAs含量がそれぞれ3450, 2310と830 mg kg<SUP>-1</SUP>と極めて高い値であった。この土壌について塩酸浸出並びに逐次抽出を行った結果,Asの約14%が可溶性画分に,また約50%が可動性画分に存在し,溶出しやすいことが示唆された。Cuは可溶性と可動性画分にそれぞれ4.1%と66%が測定され,土壌のpHや酸化還元電位の変化によって溶出しやすいことが考えられた。CrはAsとCuと比べると可動性が低く,全含量の95.5%が残渣画分に存在した。一方,廃材焼却跡地で採取した植物2個体は三元素ともBowenが提示した陸上植物のCr,CuおよびAs含有率の最大値を上回った。これらの結果から,CCA処理廃材の積み置きや焼却などの非適切な扱いは土壌,植物や水系など周辺環境に影響を及ぼす可能性が示された。
著者
成瀬 一郎 後藤 知行 山内 健二 船津 公人
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.231-237, 2001-03-30
被引用文献数
1

現状の社会構造を持続発展可能なものへと転換させるためには,物質循環を機軸とする社会システムの構築が必要不可欠である。本研究ではその具現化方策の一つとして,各種産業から発生する廃棄物を未利用物質と位置付け,必要であれば最適な再資源化技術を適用することにより,それを他の産業における原料として利用するという異業種間ネットワークの構築によって,地域におけるゼロエミッション化を実現する方法論を提案する。具体的には,アンケート調査によって各事業所および廃棄物中間・最終処理業者における原料,製品,廃棄物の量と質に関するデータベース化や未利用物質を原料へ転換する再資源化技術に関するデータベース化を行い,これらを入力情報としてネットワークシミュレータにより解析を行う。本報では,豊橋市および東三河地域を対象地域として,農業・漁業・鉱業・建設業・製造業の各事業所1,139社,廃棄物中間・最終処理業者64社についてアンケート調査を行い,それぞれ236社(回収率:20.7%),32社(回収率:50%)の回答結果からデータベースを作成した。また,文献調査等により,総数383件の再資源化技術情報に関するデータベースも作成した。さらに一例として,作成したデータベースより廃ポリエチレンと燃え殻を入力情報としてネットワークシミュレータによる現状での地域内物質循環について解析を行った。次に得られた結果から,適当な再資源化技術をデータベースより抽出し,仮想的に組み入れた場合の物質循環についても検討した。結果として,各種データベース作成とそれを利用したネットワークシミュレー夕による解析は,最適な地域物質循環ネットワーク構築のための有効なツールになるものと考える。
著者
藤井 紳一郎 伊永 隆史
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.586-592, 2000-12-31
参考文献数
11
被引用文献数
1

本研究では、ワカメ養殖加工業から発生する芽株、茎、根などのワカメ未利用物について、その発生量などを明らかにすると共に、ワカメ加工業における物質収支フローチャートを作成した。物質フロー解析結果から、ワカメ未利用物は微生物分解が可能であると判断し、低環境負荷型生物分解システムを開発した。また、熱水抽出法及び炭酸ナトリウム溶解法を用い、ワカメ未利用物からの有効成分分離利用技術を開発した。特に、熱水抽出法により得られた抽出物の分析を行い、免疫賦活物質(β-1,3-グルカン)の含有が確認された。得られた免疫賦活物質について、バキュロウイルス感染クルマエビへの投与試験を行った結果、免疫賦活物質無投与区画では20日後に100%死滅したのに対し、免疫賦活物質投与区画では最高90%の生存率が確認された。実用化可能な免疫力向上性が確認されたため、クルマエビ養殖用餌への免疫賦活添加剤としての利用を検討した。その他、炭酸ナトリウム溶解法により得られた、粗繊維質成分への酵素(セルラーゼ)処理を行うことで、オリゴ糖生産を行った。ワカメ未利用物からの有効成分分離及びその利用について検討し、ワカメ養殖加工で全国3位の実績を誇る、徳島地域における同業種でのゼロエミッション化ネットワークの形成と、その可能性を示した。同時に、熱水抽出法により得られる免疫賦活物質のクルマエビ等養殖用餌添加剤としての利用を前提に、全国的なゼロエミッション化ネットワークの構築についても検討した。
著者
中崎 清彦 安達 友彦
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.570-578, 2000-12-31
参考文献数
18
被引用文献数
2

多くの産業で排水処理施設から大量の汚泥が排出されている。汚泥を工業原料に変えて他の産業で使用するネットワークの構築はゼロエミッションへの一段階である。本研究では排水処理過程で排出される汚泥から生分解性プラスチックの原料であるL-乳酸の生成を試みた。製紙工場から排出される汚泥はセルロースの含有量が高く,糖化と発酵の組み合わせでL-乳酸の生成が可能であること,また,セルロースの糖化にともなって生成するグルコースによる酵素反応阻害の低減には同時糖化発酵法の適用が有効であり,温度40℃,pH5.0の最適条件下で9.779/Lの高濃度L-乳酸が生成できることを明らかにした。
著者
土坂 享成 木村 哲哉 今井 邦雄 妹尾 啓史 田中 晶善 小畑 仁
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.393-398, 1999-11-30
参考文献数
14
被引用文献数
1

前報において,カドミウム解毒に重要な役割を果たすと考えられている(γ-EC)<SUB>n</SUB>G合成酵素の性質について,水稲根を用いて検討したことを報告し,水稲根中で(γ-EC)<SUB>n</SUB>Gを合成している酵素の少なくとも一部がカルボキシペプチダーゼである可能性を示唆した。これを踏まえ,本研究では各種のカルボキシペプチダーゼに(γ-EC)<SUB>n</SUB>Gの合成能力があるかを検討した。更に,イネ由来のカルボキシペプチダーゼ遺伝子を発現ベクターに組み込み,これを大腸菌に導入してカルボキシペプチダーゼ遺伝子を発現させ,それにより(γ-EC)<SUB>n</SUB>G合成能力が増大するかを検討した。 その結果,全てのカルボキシペプチダーゼ標品において(γ-EC)<SUB>n</SUB>Gの合成が認められ,その至適pHはカルボキシペプチダーゼの分解活性のそれとほぼ同じであった。また,その合成活性はカルボキシペプチダーゼの特異的阻害剤により抑制されることが認められた。比較のために行ったアミノペプチダーゼ標品では(γ-EC)<SUB>n</SUB>Gの合成は認められなかった。一方,カルボキシペプチダーゼ遺伝子を導入した大腸菌の抽出液における(γ-EC)<SUB>n</SUB>G合成活性が,導入していない方よりも増大したことが認められた。これらのことから,カルボキシペプチダーゼが(γ-EC)nGを合成している酵素の一つである可能性が更に強く示唆された。
著者
蒲原 弘継 ウィディヤント アヌグラ 熱田 洋一 橘 隆一 後藤 尚弘 大門 裕之 藤江 幸一
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.247-256, 2009-07-31
参考文献数
42
被引用文献数
3

本研究は,インドネシア産のパーム油を原料にしたバイオディーゼル燃料(パームBDF)の生産から,日本国内への輸入に伴う環境負荷として,温室効果ガス排出量とエネルギー消費量を評価した。評価は,インドネシア現地での調査結果に基づき行った。温室効果ガス排出量はバイオマスによって固定された炭素の収支を考慮して評価した。その結果,パームBDF生産・輸送に伴う正味の温室効果ガス(GHG)排出量は,軽油の生産・輸送・消費に伴なうGHG排出量に比べ約60%のGHG排出量であった。ただし,今後,パーム油工場で発生するバイオマス残渣やラグーンで発生しているメタンの有効利用が行われればGHG排出量のさらなる低減が可能であることが示唆された。一方,パームBDF生産・輸送に伴うエネルギー消費量の合計は,約10.4MJ/Lであった。仮に,日本で消費される軽油分のエネルギーをすべて代替するためには,約11万haのオイルパームのプランテーションが新たに必要となることが明らかとなった。
著者
倉増 啓 鶴見 哲也 馬奈木 俊介 林 希一郎
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.401-409, 2010-09-30
参考文献数
10

本研究では,経済指標,社会・人口統計上の指標および性格指標が幸福に与える影響をコントロールした上で,主観的幸福度指標が環境指標とどのような関係性にあるのかについて検証を行う。分析には,東京都および神奈川県で行ったサーベイデータ及び各サンプルの居住地における局所的な環境汚染のモニタリングデータを用いた。本研究で得た推計結果から,光化学オキシダント排出量の低減が主観的幸福度向上の可能性を有していることが示唆された。
著者
村上 一真
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.401-412, 2013-09-30
参考文献数
16

社会からの影響および社会への影響を考慮した個人の節電意図・行動・効果プロセスを,市民アンケート結果を用いた共分散構造分析により明らかにするとともに,多母集団同時分析により地域(東京都,大阪府)と時期(2011 年夏季,2011 年冬季)別の状況の違いが,個人の節電意図・行動・効果プロセスに与える影響の差異を明らかにした。結果,節電目標の理解が節電意図や節電行動を喚起させ節電効果に寄与すること,停電への不安・恐怖が節電意図を高めること,節電目標の理解要因のほうが停電への不安・恐怖要因よりも節電意図を高めることを明らかにした。加えて,地域・時期別の違いとして,東京では節電意図に寄与する節電目標の理解要因と停電への不安・恐怖要因の大きさに有意な差はないこと,2011 年夏季の「節電意図→節電行動」は,東京が大阪よりも有意に大きく,2011 年冬季にはその有意差はなくなったこと,その東京の夏季の「節電意図→節電行動」と冬季のそれとは有意差があることを明らかにした。これらから,東日本大震災に起因する外部要因に影響を受ける節電意図・行動・効果プロセスの確立は確認されたが,時間経過により各要素の水準が低下することで節電効果が低下することを指摘し,中長期における節電意図・行動・効果プロセスの定着・持続の必要性を議論した。
著者
田中 充
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.284-296, 2010-07-30
参考文献数
22

地球温暖化の深刻化に伴う温暖化対策の促進が求められる中で,地方自治体における温暖化・エネルギー対策の一層の強化が期待されている。本研究では,こうした自治体エネルギー行政に焦点を当て,エネルギー対策の方向性と課題を抽出する「政策マトリックス」 の概念を検討する。これは,自治体の役割である消費主体,事業主体,政策主体という3つの側面と,地域対策の対象分野となる需要側対策,供給側対策,需給両面対策の3つの分野に区分し,自治体エネルギー対策の枠組みを体系化する考え方である。<BR>次に,自治体エネルギー行政の対策体系を分析することを目的に,政策マトリックスに基づく「エネルギー対策チェックリスト」を検討・考案し,その内容を項目体系として取りまとめて提示する。また,大都市近郊の2つの基礎自治体として日野市と枚方市を対象に事例研究を行い,チェックリスト手法の適用可能性と対策課題の抽出を試みる。その結果,各々のエネルギー対策体系に関してこの手法を適用して取組状況を分析したところ,2つの自治体のエネルギー行政は総体的評価である総合点では同じ水準であったが,対策分野別には得点分布の状況が異なっており,自治体が取り組むべき対策課題を把握することができた。これはチェックリスト分析が,自治体が従来から取り組んできたエネルギー対策の実績等を反映したものと考えられる。こうした結果を踏まえて,本研究ではチェックリスト手法の有用性を明らかにし,今後の自治体エネルギー行政の一層の強化に向けた検討課題を抽出している。
著者
兜 真徳 本田 靖 青柳 みどり
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.45-57, 2006-01-30

地球温暖化やヒートアイランド現象に関連して,夏季高温日の個人の温度曝露実態を調べることは,対象地域についての健康リスク評価にとって重要である。筆者らはこれまで,携帯型の温度計を用いて直接測定を行ってきているが,その結果については別途報告予定である。一方,室内における空調機器(AC)による温度制御の実態は,温暖化対策との関連でも,重要な情報であるので,本研究では,質問調査によって,その実態を調査解析した。 約16000の対象者に郵送調査で質問紙を送り,2090の有効回答を得た(有効回答率=13%)。回答者を北海道,本州・九州,沖縄に分けると,AC利用率は北海道で低い(40%)が,その他の地域ではいずれも90%以上であった。AC利用者の中で,気温が25-30℃の範囲で「暑いと感じたらすぐに付ける」は238名,「我慢できなくなったら付ける」が1156名であった。前者では,15-30℃でスイッチを入れる人が60%,後者では30-35℃でスウィッチを入れる人は40%であった。全体的にみると,気温が35℃以上となると,ACを持っている人のすべてがACを利用していることが明らかであった。したがって,気温35℃は,ACを地域全体が一斉に利用する「行動的閾値」であると言える。暑熱日の主訴をみると,最も頻度が高いのが"よく眠れない"と"疲れるあるいは体が不調"が多く,前者は57%,後者が28%であった。また,これらの主訴はその他の地域より沖縄に高い傾向があった。一方,熱中症にかかったことがあるかどうかを聞いた質問に対しては,沖縄が一番低く,反対に北海道で高い傾向があった。北海道でも暑熱日には35℃を越える年もあり,そうした高温日にはその他の地域よりリスクが上昇することを示唆している。本調査結果のまとめには,有効回答率の低さ,また,郵送質問調査でもあり,バイアスがかかっている可能性が否定できない。別途報告している個人曝露調査結果のまとめと比較しつつこの結果を利用していただければ幸いである。
著者
亀山 康子 蟹江 憲史
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.175-185, 2008-05-30

気候変動対処を目的とした京都議定書には,先進国等の2008年から2012年までの温室効果ガス排出量に対して排出抑制目標が規定されているが,その後の対策(次期枠組み)に関しては今後の交渉に委ねられている。十分な気候変動緩和のためには次期枠組みにおける途上国の実質的参加が不可欠だが,途上国は現在交渉開始に消極的である。その理由として,対策が経済的発展を阻害すると認識されていることに加えて,前向きに交渉するために必要な政策立案能力が不足している点がアジア諸国に見受けられる。今後アジア諸国が政策立案能力を高め,気候変動対策の長所を最大限に生かせるような交渉ポジションを自律的に形成することを目指し,その第一歩としてアジア諸国の次期枠組みに関する国内制度設計や議論を調査した。 6力国での調査結果を比較し,結果として以下の3点が挙げられた。(1)国内の次期枠組みに関する議論は,国の経済水準が高い一部の国でのみ進展しており,その他の国では次期枠組みの議論はまったく始まっておらず現行枠組みの実施段階にあった。(2)現行枠組みの実施に関しては,1国を除くすべての国で省横断的な組織が設立されていた。また,複数の国ではその組織の参加者として政府関係者のみならず研究者や環境NGOも認められており,非政府組織が政策立案に影響を及ぼしうる場として機能していることが分かった。(3)次期枠組みに関する議論が各国内で始まった場合に予想される各国のポジションは多様であった。このような多様なニーズにきめ細かく対応するためには,気候変動枠組条約および京都議定書といった従来型の多国間条約のみならず,地域協力や二国間協力等を含めた幅広い枠組みに発展させていく必要があることが指摘できた。
著者
亀山 康子
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.133-136, 2009-03-31
参考文献数
2

国際関係論(International Relations)において,環境というテーマは比較的新しいが,近年では,環境関連の研究が国際関係論の中でも進展しつつある。本稿では,国際関係論全般の歴史を概観し,その中での環境研究の意義と到達点について考察する。 国際関係論とは,国家と国家の間の関係に関する学問である。しかし,環境問題は,(1)被害の及ぶ範囲が国境を越える,(2)解決に向けた国際的議論において,国内アクターの参加が求められる,という2点において,従来型の国際関係論で前提となっていた国際問題と異なる・そのため,新たな理論が必要となってきた。現在,国際関係論の主な環境研究として,(1)国際環境条約の交渉過程の分析,(2)国際環境条約の効果に関する分析,(3)複数の国際環境条約のリンケージに関する分析,(4)ある特定の国の外交政策の一部としての環境外交,(5)国内アクターの国際的活動等がある。 地球環境問題をテーマに掲げる国際関係専門家の数が増えるにつれ,学会においてもその勢力は急速に増している。欧米では,早くから(2)の中でも環境研究者が1990年代以降勢力を拡大した。これと比べると,日本ではまだ発展途上にある。 環境科学会において,今後,国際関係論との関係はますます密になっていく可能性がある。国際関係論のように学問分野内での環境研究者のフォーラムが未発達の場合,環境科学会のように,すべての学問分野に門戸を開き続ける学会の存在は今日でも貴重といえる。また,環境科学会では,政府関係者,自治体関係者,産業界,市民団体,学生,が集う場を提供しているため,多様な立場の個人の意見交換の場としての機能が今後も期待される。
著者
山口 恵子 小島 理沙 石川 雅紀
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.375-380, 2010-09-30
被引用文献数
1

2007年2月、神戸市に立地するコープ六甲アイランド店にて、"「ごみ減量」市民の大実験!!簡易包装を買おうプロジェクト"が実施された。このプロジェクトでは、神戸大学の学生を中心とした特定非営利活動法人ごみじゃぱん(Gomi-jp)が、店舗内の食料品や生活雑貨品から包装ごみの少ない推奨商品を選定し、店頭広告・チラシ・イベントなど様々なメディアを用いて生活者に簡易包装商品の情報を発信した。本研究では、この実験で用いられたパブリックマーケティングアプローチ(PMA)に基づく減装(へらそう)ショッピングによって、簡易包装商品の需要に対してどのような影響を及ぼすのかをパネルデータモデルを用いて分析した。分析結果より、実験期間における生活雑貨品(推奨理由:詰め替え)カテゴリーの推奨商品の販売量はプラスの影響を受けていることが明らかにされた。さらに、実験期間を前半期間と後半期間に分けて分析した場合には、集中陳列棚を用いて効果的にアピールした後半期間にはプラスの効果が表れることが示された。結論として、PMAは容器包装ごみの発生抑制に有効であることが示された。
著者
白木 洋平 近藤 昭彦 渡来 靖
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.472-479, 2011-09-30

近年,都市化が進展している関東地方ではヒートアイランド現象の影響による気温の高温化が年々顕著になっており,社会的な関心を集めている。このヒートアイランドの実態を把握する手段の一つとして,同時期同時刻の観測データを面的に取得することが可能な衛星リモートセンシングより推定される地表面温度データを利用する方法がある。そこで,本研究ではNOAA12およびNOAA14のAVHRRから作成した地表面温度のコンポジット画像を用いることで,関東地方におけるヒートアイランド現象の実態把握を行った。対象期間は1997年から2001年の5年間,ヒートアイランドが顕著に発生する冬季明け方(1月,2月の午前3時から午前6時を対象)と,比較対象として夏季明け方(7月,8月の午前3時から午前6時を対象)を選定した。次に,関東地方の地表面温度は都市の影響を最も受けていると考えられることから,都市域の分布と地表面温度の関係についても評価を行った。<BR>その結果,夏季明け方の地表面温度分布の形成には都市域の分布が大きな影響を与えていたが,冬季明け方の地表面温度分布の形成には都市域のみならず関東地方を取り巻く山地の斜面中腹に発生している斜面温暖帯が大きな影響を与えていることがわかっ
著者
黄 錚 外岡 豊 王 青躍 坂本 和彦
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.348-361, 2009-09-30
参考文献数
30

都市大気汚染問題は古くて新しい課題である。多くの先進国の都市が経済発展の過程で二酸化硫黄等による厳しい大気汚染を経験してそれらの汚染物質排出量が顕著に削減されていったが,近年自動車による都市交通量の増加で窒素酸化物等による新しい都市大気汚染が問題になっている。一方,発展途上国は急速な都市化で短期間の間に先進国が今まで経験した様々な大気環境問題に対処しなければならなくなっている。発展途上国が経済発展をさせながら都市大気環境を同時に改善しうる可能性を見出すために,先進国の都市大気環境の汚染対策史からどのような汚染対策を学ぶべきかという立場から,本稿では環境クズネッツ曲線を用いて大気汚染物質である二酸化硫黄と二酸化窒素を中心に,2008年のオリンピック開催地の中国北京の大気汚染対策と戦略に注目し,オリンピック開催経験のある先進国の都市との比較を試みた。その結果,各都市では二酸化硫黄対策では環境クズネッツ曲線の変化が見られたが,二酸化窒素の場合,先進国では対策の取り遅れのため低減傾向が見られなかった。一方,後発的な都市である北京では,先進国で実施中の対策を早い段階で取り入れたことによると推定される削減効果が見られた。これらの結果は,環境クズネッツ曲線が当てはまるという確証は得られなかったが,それを前提とする解析では,発展途上国は先進国の経験から学び,先進国で現在実施中のより効果的な環境対策を積極的に実施することによって早い段階で環境改善の方向に向かうことができるという可能性を示唆していた。
著者
間野 勉
出版者
環境科学会
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.438-440, 2009-11-30