著者
黒岩 豊秋 岩永 正明 小張 一峰 東恩納 厚 金城 福則 斉藤 厚
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.1425-1432, 1990-11-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
25
被引用文献数
7 9

抗菌剤投与による糞便内菌叢の変動とそれに対する生菌性整腸剤併用の影響を検討した. 消化管に特記すべき疾患を持たずに, 抗菌剤療法を受けた成人入院患者を対象とした.抗菌剤投与前の患者69名の糞便内菌叢は, 各菌属の検出率・検出菌数とも光岡らの報告した健康成人のものとほぼ同一であり, 正常菌叢を反映しているものと思われた.抗菌剤投与後, Enterococcus, Yeastsを除く全ての菌属で検出率の減少が観察され, 検出された菌属ででも多くの場合, その菌数は減少する傾向がみられた. このような糞便内菌叢の変動は, 生菌性整腸剤 (ミヤBM: Clostridium butyricum M588) を併用した群においても同様に観察された. また, ミヤBM投与群において, 抗菌剤投与にもかかわらずC.butyricum M588株は, 70%の患者糞便中から分離された. そのうち約半数は, 芽胞形より非芽胞形の菌数が多く, 投与された生菌が消化管内において発芽していることを示していた.糞便中C.difficileまたはToxin Aの検出率は, 抗菌剤投与後著しく増加したが, その増加はミヤBMの併用により著明に抑制された.
著者
黒岩 豊秋 小張 一峰 岩永 正明
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.257-263, 1990-03-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
19
被引用文献数
11 12

生菌性整腸剤の効果に対する作用機序解明並びに実験的評価を目的として, 各種腸管病原菌と酪酸菌MIYAIRI 588株を混合培養し, 経時的に菌数の増減を測定した. 腸管病原菌はいずれも患者由来株を使用し, 37℃ 嫌気培養を行った.混合培養において酪酸菌は, コレラ菌・ナグビブリオ・アエロモナス・赤痢菌の発育を強く抑制した. 酪酸菌は主として消化管下部において発芽増殖するので赤痢菌との関連を更に追求し, 次のような結果を得た. (1) 赤痢菌をBHIbrothで嫌気培養すると培養終了時に培地のpHは5.2程度まで下がったが, 菌は順調に発育した. (2) 酪酸菌と混合培養するとpHは5.6程度で留まったが, 赤痢菌の発育は強く抑制された. (3) 酪酸菌24時間培養液はpH5.5前後であり, この上清中で赤痢菌は全く増殖できなかった. (4) この上清をNaOHでpH7.2に調製すると赤痢菌は新鮮培地におけると同様に増殖した. (5) 培養中のpHを6.0以上に維持させるため燐酸緩衝液を加えたBHIbrothでも混合培養によって赤痢菌の増殖は抑制された. この様な結果から, 酪酸菌による赤痢菌の発育抑制は, 培地のpH, 代謝産物など単一の要因によるものではなく, その両者及び酪酸菌そのものの存在が作用しあっているものと考えられた.