著者
黒川 湧暉 熊原 康博
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.183-196, 2022-05-28 (Released:2022-05-31)
参考文献数
26

本研究では,滋賀県南東部の草津川について,1874年に作成された「栗太郡各村絵図」の草津川に関する数値情報をもとに明治初期の天井川全体の河床高や堤防高を復元した。1970年代後半の測量の数値とそれを比較することで,明治初期以降の約100年間の天井川の変化を検討した。その結果,以下の点が明らかとなった。明治初期,美濃郷川の合流点(湖岸から 8.2 km地点)より下流では,平地と河床の高低差が著しい天井川であり,それより上流は天井川であったものの,両者の高低差は小さかった。明治期の上流の堤防工事に伴い,上流では土砂堆積による河床上昇が生じて,平地と河床の高低差が著しい天井川が生じた。一方,美濃郷川の合流点より下流では,4.5 km地点から 2 km地点で河床の低下がみられるほかは大きな変動はみられず,右岸より低かった左岸の堤防の嵩上げが行われた。河床の掘り下げの要因には,草津川を横切るトンネルがあったため難しかったことが考えられる。本研究により,1つの河川であっても天井川の発達(河床の上昇)の時期が場所により異なること,近代以降にも河床の上昇がみられることが明らかとなった。