著者
岩佐 佳哉 熊原 康博
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.367-379, 2023 (Released:2023-09-21)
参考文献数
16

本研究では,広島県東広島市および呉市を対象とした現地調査と法務省が公開した登記所備付地図データを組み合わせることにより,呉市が1943年に敷設した上水道の遺構をマッピングし,その特徴を明らかにした.現地調査の結果,少なくとも192個の遺構が存在することが明らかになった.また,登記所備付地図データを用いることで,遺構に沿って幅3 m程度の細長い区画が長さ約10.7 kmにわたり今も存在することを確認できた.この細長い区画は上水道を敷設するために呉市が取得した土地である.旧呉市上水道の敷設の背景には旧日本海軍鎮守府の協力・支援があり,本研究で明らかにした遺構は,戦闘とは直接関係のない場所にも戦争の影響が及んでいたこと,その影響が現在も継続していることを示す戦争遺跡の一種とみなすことができる.そして,登記所備付地図データを活用することで,閲覧にかかる労力や費用が削減され,より精緻なマッピングが可能となった.
著者
岩佐 佳哉 濱 侃 中田 高 熊原 康博 後藤 秀昭 山中 蛍
出版者
一般社団法人 日本活断層学会
雑誌
活断層研究 (ISSN:09181024)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.57, pp.1-13, 2022-12-26 (Released:2023-06-27)
参考文献数
19

In order to evaluate the applicability of 3D scanners for field survey on surface ruptures, we examined the scanning accuracy, point cloud density, usability, and time efficiency of the instruments of three different SLAM methods, Avia for LiDAR SLAM, ZED 2 for Visual SLAM, and iPad Pro for Depth SLAM We conducted experimental surveys on the surface ruptures associated with the 2016 Kumamoto Earthquake at two locations. One is the surface rupture preserved as the earthquake heritage in the Aso field of Tokai University, while another is a normal fault rupture in the forested area at Miyayama, Nishihara Village, Kumamoto Prefecture. All the scanners obtained detailed point clouds, from which we successfully made digital surface models, cross-profiles and contour maps in a few tens of minutes. We came to know that Avia is most effective among the three scanners for wide-area mapping and that iPad Pro is a useful handy instrument for mapping limited areas. From our experimental survey, it is highly recommended to use Avia and iPad Pro together (in the field) in order to collect detailed geometric data of surface ruptures immediately after earthquake.
著者
岩佐 佳哉 熊原 康博
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.109-116, 2020-12-28 (Released:2021-01-26)
参考文献数
12

1945年9月に発生した枕崎台風は,広島県において明治以降に発生した災害の中で最も大きな被害をもたらしたが,その詳細は一部地域を除いて不明である。本研究では広島県東広島市を対象に,枕崎台風に伴って発生した土石流の分布を復元し,死者の分布と数を報告する。さらに,土石流の発生履歴を図示することの防災・減災における意義を示す。空中写真判読の結果,対象地域において811カ所で土石流が発生し,少なくとも13人の死者があったことが明らかになった。また,西日本豪雨の土石流分布と比較すると,2度の土石流の崩壊源は異なる谷に存在し,下流部ではこれらが集まることで土石流による被害を繰り返し受けてきたと考えられる。枕崎台風の土石流による被害を空中写真判読と水害碑や石仏,「学校沿革誌」を用いて復元し,西日本豪雨の土石流と重ねて図示した。これらは住民の防災・減災意識の向上に資する資料となりうると考える。
著者
小山 耕平 熊原 康博 藤本 理志
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1-18, 2017-04-28 (Released:2018-08-19)
参考文献数
29

We examine characteristics of the stone monuments related to flood or debris flow disasters in Hiroshima prefecture based on official records of the past disasters, results of a field survey, and interviews with inhabitants living near the monuments.As a result, there are at least 40 monuments in Hiroshima prefecture in memory of 14 major disaster events dating from AD1831. Most of the monuments are distributed in and around the damaged area. There are located in local community centers, temples, and shrines, where the local people visit frequently.The contents of the inscriptions built during and before World War II, have had plentiful information related to the process of building the foundations of the monuments, and the details of disaster damage and restoration work. The contents inscribed on those monuments built after the war, have mainly implied sentiments about rest for the souls of disaster victims or memorial of restoration work.In conclusion, these monuments have the potential to inform local people about the exact area affected and the situation of past disasters for a long time. There are few cases where local people use the monuments for disaster prevention activities. Although there are currently few cases where local people use the monuments for disaster prevention activities, doing so would definitely prove to be advantageous.
著者
熊原 康博
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-34, 2010 (Released:2010-08-23)
参考文献数
53
被引用文献数
1

本研究では,江戸時代の五街道の一つである中山道の関東平野の範囲を対象に,平野地域における歴史的な街道の地形条件の特徴を明らかにした.研究の方法は,街道のルートを正確にマッピングし,第二次世界大戦直後の空中写真の実体視により街道沿いの地形を分類した.本研究で明らかになったことは,平野全体でみた場合,そのルートは比較的直線であり,台地をできるだけ通過し,山地や丘陵,沖積低地を避ける傾向があることである.また,地形分類でみた場合,以下の特徴が挙げられる.台地では開析谷を避け,面の分水界に沿う傾向があること,扇状地性の台地では等高線に平行する弧を描くルートをとること,沖積低地では自然堤防を伝い,旧河道や後背湿地,河川を可能な限り通過しないことである.これらの特徴からは,高低差を少なくする通行の容易性と,水害を避けるという安全性の両面に配慮していることが指摘できる.ただし,いくつかの地点では,安全性よりも容易性を優先したルートも認められる.
著者
岩佐 佳哉 熊原 康博 後藤 秀昭 石村 大輔 細矢 卓志
出版者
一般社団法人 日本活断層学会
雑誌
活断層研究 (ISSN:09181024)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.56, pp.47-58, 2022-06-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
32

The Futagawa fault, extending southwest from Aso caldera, is one of the major dextral strike-slip active faults in Kyushu, southwest Japan. On 16 April 2016, the Kumamoto earthquake (Mj 7.3) occurred, and ~31-km-long right-lateral surface ruptures appeared along the Futagawa fault. After the 2016 earthquake, several trenching surveys were conducted across surface ruptures to reveal the faulting history. However, no trenching survey has been carried out in the 15-km-long middle section from Dozon to Aso caldera. We conducted a trenching survey and an additional hand auger survey to reveal faulting history in Komori, Nishihara Village, in the middle of the section. Furthermore, we carried out a geomorphological survey for the detailed description of the surface ruptures around the trench site. At the trench site, a ~40-cm-deep graben was formed by the 2016 earthquake. A similar graben structure appeared on the trench wall units, which shows larger vertical deformation than that of the 2016 earthquake, indicating that similar types of deformation to the 2016 earthquake have repeatedly occurred at this site. Based on such deformational features of units, we identified at least four faulting events, including the 2016 earthquake, since about 11,500 cal BP. Also, the timing of the penultimate event was 2,240-1,910 cal BP and the calculated recurrence interval was 2,400-3,800 years. The penultimate event may have been simultaneous in the section from the northeastern part of the Aso caldera to the southwestern part of the fault zone, similar to the 2016 Kumamoto earthquake. If this idea is correct, based on the overlap among event dates from previous studies as well as our result, the timing of the preceding earthquake is about 2,000 cal BP.
著者
松多 信尚 杉戸 信彦 後藤 秀昭 石黒 聡士 中田 高 渡辺 満久 宇根 寛 田村 賢哉 熊原 康博 堀 和明 廣内 大助 海津 正倫 碓井 照子 鈴木 康弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.214-224, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

広域災害のマッピングは災害直後の日本地理学会の貢献のあり方のひとつとして重要である.日本地理学会災害対応本部は2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後に空中写真の詳細な実体視判読を行い,救援活動や復興計画の策定に資する津波被災マップを迅速に作成・公開した.このマップは実体視判読による津波の空間的挙動を考慮した精査,浸水範囲だけでなく激甚被災地域を特記,シームレスなweb公開を早期に実現した点に特徴があり,産学官民のさまざまな分野で利用された.作成を通じ得られた教訓は,(1)津波被災確認においては,地面が乾く前の被災直後の空中写真撮影の重要性と (2)クロスチェック可能な写真判読体制のほか,データ管理者・GIS数値情報化担当者・web掲載作業者間の役割分担の体制構築,地図情報の法的利用等,保証できる精度の範囲を超えた誤った情報利用が行われないようにするための対応体制の重要性である.
著者
熊原 康博
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.334, 2013 (Released:2013-09-04)

1.はじめに 発表者は,太平洋戦争直後に撮影された縮尺2万分の1米軍空中写真の地形判読により,群馬県南東部の太田市東部から桐生市西部にかけてのびる活断層(太田断層)を発見した.本発表では,地表踏査および,群列ボーリング調査,トレンチ掘削調査の結果を報告する.また,本断層の最新活動時期や地盤災害の痕跡の時期や分布から,本断層が818年(弘仁九年)の起震断層である可能性についても議論する.本研究は文部科学省による「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の支援を受けた.2.断層変位地形 本断層は、渡良瀬川の西側に沿って認められる南-北走向~北西-南東走向の少なくとも長さ18kmの活断層である. 断層の南部では,断層崖を境に利根川起源の中位面(館林面),扇状地面,旧利根川の河道が,東側低下の変形を受けており,その変位量は古い地形面ほど大きいことから累積的な変形が示唆される.断層崖の幅が100mに達する撓曲変形をなすことや,断層上盤側で盛り上がる地形が認められることから,西傾斜の断層面をもつ低角な逆断層と想定される.利根川左岸までは館林面の変形を指標として,本断層を認めることができるが,右岸は利根川の浸食/堆積が著しく,本断層の南延長については不明である. 断層の北部は,渡良瀬川の向きと断層の走向がほぼ平行になるため,河食崖と断層崖との区別が困難であった.八王子丘陵の東縁沿いでは,丘陵を開析する谷の谷口に小規模な扇状地が形成されている.これらの扇状地は南東側低下の撓曲変形を受けていることが,写真判読からは認定される.ただし現在では土地改変が進んでいることから詳細は不明である. 3.群列ボーリング調査 太田市龍舞において,断層に直交する測線で5本の群列ボーリング調査を行った.その結果,下部の礫層上面を指標とすると約4.3m,浅間板鼻黄色軽石(YP:13~14ka降下)を含む砂層上面を指標とすると2m程度の東側低下の高低差が断層崖直下で認められた.これは,礫層堆積以降少なくとも2回の断層変位が認められること,YP以降に最新活動があったことを示す.4.トレンチ掘削調査 ボーリング調査と同地点で,断層崖を横切るトレンチ掘削調査を2回実施した.トレンチ壁面からは,傾斜する2つの地層とそれらをアバットする水平な地層が認められた.傾斜する下位の地層(A層)は,上部にYPを含むラミナをもつ砂層であった.YPを鍵層として地層の傾斜の変化をみると,トレンチ西側で水平であったYPが東(崖基部)に向かって徐々に傾斜が急になる.また,A層の上位にはYPの傾斜と同じ程度の傾斜である腐植質粘土層(B層)も認められ,14C年代値の内最も若い年代はAD540-650である.一方,B層を覆う水平な地層(C層)も認められ,浅間Bテフラ(As-B: AD1108降下)を含み, 14C年代値の内最も古い年代はAD770-980年であった. 一般的に腐植質粘土層は水平堆積することから,B層が断層変位を受けた地層、C層を変位後の地層とみなした.最新活動の時期は,両者の14C年代値からAD540-980といえる.最新活動の垂直変位量は少なくとも1.2m以上であるが,B層の上部が欠落しているため,正確な量は不明である. 5.古地震の記録,周辺の地盤災害の痕跡との関係 トレンチ掘削調査で得られた断層活動の年代からは,本断層が、『類聚国史』の記事に記された,関東地方における818年の大地震の起震断層の候補となりうる.また,群馬県南東部や埼玉県北部では,噴砂・地割れ跡など強い地震動が生じたことを示す地盤災害の痕跡が多くの考古遺跡から報告されてきた.この地域は,榛名二ッ岳渋川テフラ(Hr-FA)とAs-Bの降下範囲であるため,噴砂・地割れの発生年代を両テフラ降下間(6世紀初頃~1108年)に限定され,早くから818年の地震との対応が指摘されていた.これらの古代の地盤災害は,本断層から20km以内に分布し,本断層の活動に伴って発生した可能性を示唆する.6. 太田断層で発生する地震の予測 太田断層の全長(長さ18km)から,断層全体が一度に活動した場合,M6.9程度の地震が発生することが予測される.ただし,利根川右岸の埼玉県北部でも,古代の噴砂・地割れ跡が多数認められることを考えると,さらに断層が南へ延びる可能性は高い.そのため,地震の規模もさらに大きくなると予想される. 本断層の活動履歴について検討する.YP以降に断層活動があったことは確実である.最新活動の垂直変位量が1.2m以上である一方,YPを指標した場合,その量は約2mである.したがってYP以降の断層活動が1回か2回かは厳密には明らかにできない.ただし,中位面のその量は3~4mと小さいことから,活動間隔は長いものと考えられ,YP以降に1回の可能性が高い.
著者
黒川 湧暉 熊原 康博
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.183-196, 2022-05-28 (Released:2022-05-31)
参考文献数
26

本研究では,滋賀県南東部の草津川について,1874年に作成された「栗太郡各村絵図」の草津川に関する数値情報をもとに明治初期の天井川全体の河床高や堤防高を復元した。1970年代後半の測量の数値とそれを比較することで,明治初期以降の約100年間の天井川の変化を検討した。その結果,以下の点が明らかとなった。明治初期,美濃郷川の合流点(湖岸から 8.2 km地点)より下流では,平地と河床の高低差が著しい天井川であり,それより上流は天井川であったものの,両者の高低差は小さかった。明治期の上流の堤防工事に伴い,上流では土砂堆積による河床上昇が生じて,平地と河床の高低差が著しい天井川が生じた。一方,美濃郷川の合流点より下流では,4.5 km地点から 2 km地点で河床の低下がみられるほかは大きな変動はみられず,右岸より低かった左岸の堤防の嵩上げが行われた。河床の掘り下げの要因には,草津川を横切るトンネルがあったため難しかったことが考えられる。本研究により,1つの河川であっても天井川の発達(河床の上昇)の時期が場所により異なること,近代以降にも河床の上昇がみられることが明らかとなった。
著者
渡辺 満久 鈴木 康弘 熊原 康博 後藤 秀昭 中田 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

2016.04.14に熊本地震の前震(M6.5)が、04.16には本震(M7.3)が発生した。これらの地震を引き起こした活断層への評価(地震本部、2013)には、指摘すべき大きな問題がある。また、地震断層近傍では、「震災の帯」と呼ぶべき被害の集中域が認められる。このような現象は1995年兵庫県南部地震後にも指摘されていたが、その教訓が生かされたとは思えない。 本震発生時、既知の布田川・日奈久断層に沿って総延長31kmの地表地震断層が現れた。ところが、前震は日奈久断層帯が、本震は(主に)布田川断層帯が起こしたものである(前震と本震は別々の活断層によって引き起こされた)との見解がある。それは、地震本部が布田川・日奈久断層という1つの活断層を、布田川断層帯と日奈久断層帯という別々の活断層として評価しているためである。 明瞭な地震断層が全域で現れたのは本震の時であり、前震の震源域は本震のそれに包括されている。また、都市圏活断層図に示されているように、布田川・日奈久断層は完全に連続した活断層である。これらのことから、別々の断層が連動したという理解は誤っている。かつて地震本部は、連続した布田川・日奈久断層として正しく評価されており、今回の震源域ではM7.2の地震が発生すると予測されていた。ところがその後、変動地形学的な証拠が軽視され、1つの活断層が2つの活断層(帯)に分割されてしまった。それによって想定地震が過小評価され、M7クラスの本震発生への警鐘に結びつかなかった可能性がある。 益城町の市街地では震度7を2度記録したが、本震時の建物被害が著しかった。被害激甚な地域は、南北幅が数100km以内、東西に数km連続する「震災の帯」をなしている。ここでは、新耐震基準に適合している建物までもが壊滅的な被害を被っている。「震災の帯」の中には、益城町堂園付近から連続する(布田川断層から分岐する)地震断層が見出されるため、その活動が地震被害集中に寄与している可能性が高い。ただし、地震断層直上でなくても、近傍における建物物の被害も著しい。 南阿蘇村においては、複数の地震断層が併走して現われた。地震断層直上およびその近傍では、ほとんどの建物が倒壊した。この地域においては、少なくとも5台の自動車が北~北西方向へ横倒しとなっていることも確認した。強いS波が自動車を転倒させ、南阿蘇村における大規模な斜面災害の引き金にもなったと考えられる。 このように、地震断層近傍では、土地のずれに加えて、強震動による被害が集中したと考えられる。堂園付近では、布田川断層の存在は知っていたという声が少なくなかった。しかし、そこに被害が集中する可能性があるとは理解されていなかった可能性が高い。活断層情報の活用の仕方について、再検討すべきであろう。 熊本地震によって、活断層の位置情報が地震防災上極めて重要な情報であることが再確認された。変動地形学的な物的証拠を重視していない地震本部による活断層評価には、非常に大きな問題がある。また、兵庫県南部地震時の教訓を十分に生かすことができなかったのは、活断層情報の活かし方に問題があったと考えられる。防災・減災に向けて、地形学からさらに積極的な提言を続けることが必要であろう。なお、熊本地震の地震断層は既知の活断層の範囲以外にも出現している。「見逃された」理由を検証し、今後の活断層調査に関して解決すべき問題を見極めなければならない。全国の都市圏活断層図の改訂など、熊本地震を貴重な事例として、明確となった問題を解決してゆく必要がある。
著者
岩佐 佳哉 熊原 康博 後藤 秀昭 中田 高
出版者
一般社団法人 日本活断層学会
雑誌
活断層研究 (ISSN:09181024)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.52, pp.1-8, 2020-06-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
11

On the 16 April Kumamoto earthquake (Mj7.3), ~31km-long right-lateral surface ruptures appeared along the previously mapped Futagawa and Hinagu faults. The surface ruptures appeared in Dozon, Mashiki Town, recording 2.2m of right-lateral displacement which is the maximum strike-slip displacement of these surface ruptures. Small surface deformations such as flexure of cultivated land and deformation of the waterway and left-lateral conjugated fault also appeared in this area. In order to reveal distribution and amount of small surface deformations, we created a digital surface model (DSM) based on photographs taken by unmanned aerial vehicle (UAV) and RTK-GPS survey and conducted a field survey. As a result, small and conjugated surface ruptures were observed about 100m northwest of the main trace of the strike-slip fault, and amount of these deformations are each about 5―30cm of north-down displacement. The amount of vertical offset of just above the main trace is 25―30cm of south-down offset but the total vertical offset in Dozon is a north-down vertical offset rather than a south-down when summing the vertical offset of the secondary trace and the main trace. We also conducted a trenching survey across the conjugated fault to reveal surface faulting history. While the vertical offset caused by the 2016 earthquake was 20cm down on the south, older strata exposed on the trench walls were offset more than 40cm. Based on the deformational features of exposed strata, we identified at least four faulting events including the 2016 earthquake. The timing of the event before the 2016 earthquake is 500―10,600yrsBP. It indicates that the conjugated fault is also cumulative. It is likely that the conjugated fault and small surface ruptures have repeatedly ruptured simultaneously with the main trace, because the conjugated fault follows the small surface ruptures and is consistent with the timing of events in the main trace.
著者
熊原 康博
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.9, pp.553-570, 2002-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

四国南西部,僧都川および松田川流域における河成段丘の編年を広域テフラを用いて明らかにし,中期更新世以降の地形発達と地殻変動様式について検討した.研究地域の段丘面は高位からH1面,H2面,M面,L面の4面に分類される.最高位のH1面は連続性の良い堆積段丘で,その堆積層には0.58±0.11Maのフィッショントラック年代を示す銭坪テフラと,0.66±0.15Maのフィッショントラック年代を示す光専寺IIテフラが挟在する.銭坪テフラは,年代・鉱物組成・含有鉱物の屈折率の一致から中部九州の由布川火砕流堆積物に対比される可能性が高い.銭坪テフラの年代からH1面は0.6Ma頃に離水したと推定される.H1面以降の段丘面は連続性が悪く,その堆積層は薄い.H1面形成までは松田川流域から増田川・僧都川流域を経て,豊後水道へ注いでいた古南宇和川が存在したが,その後,古南宇和川の水系は河川争奪によって消滅した.広く分布するH1面が厚い堆積層から成ることから,僧都川・松田川流域では約0.6Ma前後まで地盤が沈降あるいは安定していたと想定される.Hl面の縦断勾配の変形から,約0.6Ma以降に北東一南西走向の隆起の軸を持つ曲隆運動が生じたと推定し,この運動が四国山地の曲隆運動の南西端にあたることを示した.この曲隆運動によって,大規模な河川争奪が生じたと推定される.
著者
岩佐 佳哉 熊原 康博 後藤 秀昭 中田 高
出版者
一般社団法人 日本活断層学会
雑誌
活断層研究 (ISSN:09181024)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.52, pp.1-8, 2020

<p> On the 16 April Kumamoto earthquake (Mj7.3), ~31km-long right-lateral surface ruptures appeared along the previously mapped Futagawa and Hinagu faults. The surface ruptures appeared in Dozon, Mashiki Town, recording 2.2m of right-lateral displacement which is the maximum strike-slip displacement of these surface ruptures. Small surface deformations such as flexure of cultivated land and deformation of the waterway and left-lateral conjugated fault also appeared in this area. In order to reveal distribution and amount of small surface deformations, we created a digital surface model (DSM) based on photographs taken by unmanned aerial vehicle (UAV) and RTK-GPS survey and conducted a field survey. As a result, small and conjugated surface ruptures were observed about 100m northwest of the main trace of the strike-slip fault, and amount of these deformations are each about 5―30cm of north-down displacement. The amount of vertical offset of just above the main trace is 25―30cm of south-down offset but the total vertical offset in Dozon is a north-down vertical offset rather than a south-down when summing the vertical offset of the secondary trace and the main trace. We also conducted a trenching survey across the conjugated fault to reveal surface faulting history. While the vertical offset caused by the 2016 earthquake was 20cm down on the south, older strata exposed on the trench walls were offset more than 40cm. Based on the deformational features of exposed strata, we identified at least four faulting events including the 2016 earthquake. The timing of the event before the 2016 earthquake is 500―10,600yrsBP. It indicates that the conjugated fault is also cumulative. It is likely that the conjugated fault and small surface ruptures have repeatedly ruptured simultaneously with the main trace, because the conjugated fault follows the small surface ruptures and is consistent with the timing of events in the main trace.</p>
著者
熊原 康博
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

はじめに 群馬県北東部片品川流域では,活断層研究会編(1991)により,長さ約7km,北北東-南南西走向の東傾斜の逆断層が認定され,断層と片品川との位置関係から片品川左岸断層と呼ばれた.さらに,黒ボク土を変位させる明瞭な逆断層露頭の写真も載せている.中田・今泉編(2002)では,活断層研究会編(1991)の断層トレース周辺において,より詳細な位置を提示し,二本の断層トレースが平行にのびていることを示した.熊原(2015)は,右ずれ変位を示す河谷の屈曲や累積性をしめす形成年代の異なる河成段丘面の変形があること,断層長が30kmに及ぶことを報告した。本断層が片品川右岸にも連続することから,本断層を「片品川断層」と改称した。 一方,この活断層がどのような活動履歴をもつのかについては,全く明らかになっていなかった。本発表では,片品村築地地区においてトレンチ掘削調査を行った結果を報告する。 片品川断層の概要 断層の長さは30kmに及び,北端は片品村東小川,南端は沼田市(旧白沢村)高平である.全体としては,北北東-南南西走向であり,4~5本のトレースが左ステップしながら連続する。断層変位の向きは,河谷の屈曲から右横ずれ変位が認められるが,断層の走向が変化する箇所や,トレースの末端部では,段丘面上に撓曲崖が存在することから,一部では逆断層性の変位も確認できる。 サイトの地形とトレンチの概要 トレンチ掘削調査は,片品川左岸沿いの高位段丘面上の撓曲崖で行った。この段丘はフィルトップ性の段丘で支流に沿って段丘面が連続する。垂直変位量は8.8mであった。トレンチは,長さ8m,最大深さ3.5mである。 トレンチ調査の結果 トレンチ壁面からは,地表下には榛名二ッ岳伊香保降下テフラ(Hr-FP,6世紀前半),礫混じりのクロボク土がトレンチ全体で認められた。その下位には,断層変形を受けたクロボク土と礫層の互層が認められ,低角な断層面が2本認められた。下位の断層面(F1)はほぼ水平であり,クロボク中に挟まれる礫層を約2m変位させている。F1を覆うクロボク土は,上位にある断層面(F2)によって変位を受けている。F2はHr-FP下位の礫混じりクロボク土に覆われる。従って,最も新しいイベントはF2によるものであり,おそらく一つ前のイベントはF1によるものと考えられる。ただしF2に沿っては,上盤側に,高位段丘面構成層と見られる礫層の褶曲構造が随伴し,変形の程度が大きいことから,F1の断層変位よりも前にもF2に沿った断層変位があったと見られる。 活動履歴の検討 地層中に含まれる有機質のクロボク土のAMS C<sup>14</sup>年代測定に基づくと,F2の変位を受けている地層から5300-5040 cal BP (Beta-394829),変位後の地層から 8185-8035 cal BP (Beta-394828)の年代値を得た。F1の変位を受けている地層から10225-10160 cal BP (Beta-394827),変位後の地層から17025-16780 cal BP(Beta-394826)を得た。したがって最新イベントの発生時期は5040-8185 cal BP,一つ前のイベントの発生時期は10160-17025 cal BPとなる。 現状ではイベントの年代幅が広く,再来間隔は単純には2000-12000年間隔となってしまうが,5000年前以降活動していないことを考えると,少なくとも2000年間隔よりは長くなるであろう。現在追加の年代測定を依頼しており,発表時にはその結果も加味する予定である。 &nbsp; 文献 活断層研究会編(1991)『新編 日本の活断層』;中田・今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』;熊原(2015)地理科学学会春季学術大会発表 <b>謝辞 </b>本調査にあたっては,基盤研究(C)課題番号26350401(代表者熊原康博)の一部を用いた。
著者
熊原 康博 谷口 薫 内山 庄一郎 中田 高 井上 公 杉田 暁 井筒 潤 後藤 秀昭 福井 弘道 鈴木 比奈子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

はじめに 近年のラジコン技術の進歩によって,非軍事用のUAV(Unmanned Aerial Vehicle)の小型化と低価格化が進み,機材を自ら操作して低空空撮を行うことが可能となりつつある.日本でも,これらの機材を災害発生後の被害把握に活用する動きはあった(井上ほか,2012など)が,従来,専門業者にデータ取得を依頼することが多く,誰でも,どこでも,いつでも容易に利用できる状況ではなかった.最近,安価なホビー用ヘリコプターの高性能化が進み,これを利用して斜めあるいは垂直画像の低空空撮を容易に行うことが可能となった.本発表では根尾谷断層水鳥地震断層崖周辺で,ホビー用GPSマルチロータ-ヘリ(DJI社製Phantom)を用いた低空空撮の結果を紹介する. さらに,得られた空撮写真からSfm(Structure from Motion)ソフトを用いることで, DSM(Digital Surface Model)を作成する事も容易になった.SfMとは,コンピュータビジョンの分野ではメジャーな要素技術であり,リアルな立体CG作成などの映像産業やロボットや自動車制御における三次元的な自己位置認識などで用いられている.自然科学の分野では大量の写真画像から地形などの三次元モデルやオルソ画像を生成する用途で使われ始めている.今回は,断層変位地形の三次元モデルの再現を企図してSfMソフトウェアの一つであるAgiSoft社のPhotoScanを使用した. &nbsp; 調査対象範囲 濃尾地震(1891)は歴史時代に発生した我が国最大の内陸地震(M 8.0)で,本巣市根尾水鳥では縦ずれ最大6m,横ずれ2mの断層変位によって明瞭な地震断層崖が出現し,国指定の天然記念物に指定されている.このため,地震発生後120年以上経過するが,断層変位地形の保存状態がよい.空撮実験はこの断層崖を中心に南北約400m,東西約150mの範囲で行った. &nbsp; &nbsp;UAVによる写真画像の取得 Phantomは電動4ローターを持つラジコン機で,長さと幅約50㎝,重量約700g,ペイロードは最大約400gであり,最長7分程度の飛行が可能である.GPSとジャイロによって,初心者でも安定した飛行が可能である.使用した機材は.機体とインターバル撮影が可能なデジタルカメラを含め10万円以下である. 地表画像は,Phantomにデジタルカメラ(Ricoh GRⅢ:重量約200g)を機体下部に下向きに取り付け,高度約50-100mから5秒間隔で撮影した.低空でからの空撮であるために地上の物体を鮮明にとらえており,地震断層崖の地形も詳細に把握することができる.機体が傾いても,カメラの向きを常に一定に保つジンバルを用いれば,立体視可能なステレオ画像を容易に得ることが可能となる. &nbsp; Sfmソフトを用いたDSMの作成 撮影した約80枚の画像を,PhotoScanに取り込み,ワークフローにしたがって処理を行った.今回は,特に飛行ルートを設定して撮影をしたものではなく,カメラポジションはバラバラである.それでも,高解像度の3D画像が生成され,任意の角度や縮尺で断層変位地形を観察することができる.ソフトへの画像の取り込みから3D画像の完成までに要する時間は1時間弱である.正確な画像を作成するためには,カメラのレンズ特性や,地理院地図などから緯度・経度・標高を読み取り,地表のコントロールポイントを設定する必要がある. &nbsp;PhotoScanを活用すれば,GeoTIFF形式の書き出しもでき,他のソフトでも読み込むことが可能となる.本研究では, GeoTIFF形式で出力したDSMをGlobal Mapperで処理し作成した水鳥断層崖周辺の1 mコンターの3 D等高線図や断面測量を行った. &nbsp; おわりに 今回紹介した小型UAVとSfmソフトを利用した手法は,今後,活断層研究をはじめとする各種の地形研究や災害後の調査など多くの研究に活用が期待される.特に数100 m x 数100 m程度の比較的狭い範囲の地形を詳細に把握するには,多いに利用できると考えられる.この手法を用いれば,活断層や地震断層沿いの変位量を効率的に行うことが可能となり,地震の予測精度の向上に重要な震源断層面上のアスペリティー位置の推定などに貢献できる.
著者
熊原 康博 中田 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.72-85, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

本研究では,2005年10月に発生したパキスタン地震(Mw=7.6)の起震断層を明らかにするため,CORONA偵察衛星写真を用いて断層変位地形の判読をおこなった.その結果,長さ66km,北西―南東走向,右横ずれ変位成分をもつ北東側隆起の逆断層タイプの活断層が認められた.活断層の特徴が地震のメカニズム解と整合すること,断層トレースに沿って地表地震断層が生じていることから,この活断層は本地震の起震断層であると認定される.この活断層をバラコット―ガリ(Balakot-Garhi)断層と呼称する.断層破壊方向と断層トレースの分岐パターンの関係によると,震源付近から両端に向かって断層破壊が伝播したことが推定され,実際の震源過程と調和している.地震前後の衛星画像から地震に伴う斜面崩壊を抽出すると,震源周辺及び断層トレースから上盤側5km以内に斜面崩壊が多いことが明らかになった.