- 著者
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熊原 康博
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.334, 2013 (Released:2013-09-04)
1.はじめに 発表者は,太平洋戦争直後に撮影された縮尺2万分の1米軍空中写真の地形判読により,群馬県南東部の太田市東部から桐生市西部にかけてのびる活断層(太田断層)を発見した.本発表では,地表踏査および,群列ボーリング調査,トレンチ掘削調査の結果を報告する.また,本断層の最新活動時期や地盤災害の痕跡の時期や分布から,本断層が818年(弘仁九年)の起震断層である可能性についても議論する.本研究は文部科学省による「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の支援を受けた.2.断層変位地形 本断層は、渡良瀬川の西側に沿って認められる南-北走向~北西-南東走向の少なくとも長さ18kmの活断層である. 断層の南部では,断層崖を境に利根川起源の中位面(館林面),扇状地面,旧利根川の河道が,東側低下の変形を受けており,その変位量は古い地形面ほど大きいことから累積的な変形が示唆される.断層崖の幅が100mに達する撓曲変形をなすことや,断層上盤側で盛り上がる地形が認められることから,西傾斜の断層面をもつ低角な逆断層と想定される.利根川左岸までは館林面の変形を指標として,本断層を認めることができるが,右岸は利根川の浸食/堆積が著しく,本断層の南延長については不明である. 断層の北部は,渡良瀬川の向きと断層の走向がほぼ平行になるため,河食崖と断層崖との区別が困難であった.八王子丘陵の東縁沿いでは,丘陵を開析する谷の谷口に小規模な扇状地が形成されている.これらの扇状地は南東側低下の撓曲変形を受けていることが,写真判読からは認定される.ただし現在では土地改変が進んでいることから詳細は不明である. 3.群列ボーリング調査 太田市龍舞において,断層に直交する測線で5本の群列ボーリング調査を行った.その結果,下部の礫層上面を指標とすると約4.3m,浅間板鼻黄色軽石(YP:13~14ka降下)を含む砂層上面を指標とすると2m程度の東側低下の高低差が断層崖直下で認められた.これは,礫層堆積以降少なくとも2回の断層変位が認められること,YP以降に最新活動があったことを示す.4.トレンチ掘削調査 ボーリング調査と同地点で,断層崖を横切るトレンチ掘削調査を2回実施した.トレンチ壁面からは,傾斜する2つの地層とそれらをアバットする水平な地層が認められた.傾斜する下位の地層(A層)は,上部にYPを含むラミナをもつ砂層であった.YPを鍵層として地層の傾斜の変化をみると,トレンチ西側で水平であったYPが東(崖基部)に向かって徐々に傾斜が急になる.また,A層の上位にはYPの傾斜と同じ程度の傾斜である腐植質粘土層(B層)も認められ,14C年代値の内最も若い年代はAD540-650である.一方,B層を覆う水平な地層(C層)も認められ,浅間Bテフラ(As-B: AD1108降下)を含み, 14C年代値の内最も古い年代はAD770-980年であった. 一般的に腐植質粘土層は水平堆積することから,B層が断層変位を受けた地層、C層を変位後の地層とみなした.最新活動の時期は,両者の14C年代値からAD540-980といえる.最新活動の垂直変位量は少なくとも1.2m以上であるが,B層の上部が欠落しているため,正確な量は不明である. 5.古地震の記録,周辺の地盤災害の痕跡との関係 トレンチ掘削調査で得られた断層活動の年代からは,本断層が、『類聚国史』の記事に記された,関東地方における818年の大地震の起震断層の候補となりうる.また,群馬県南東部や埼玉県北部では,噴砂・地割れ跡など強い地震動が生じたことを示す地盤災害の痕跡が多くの考古遺跡から報告されてきた.この地域は,榛名二ッ岳渋川テフラ(Hr-FA)とAs-Bの降下範囲であるため,噴砂・地割れの発生年代を両テフラ降下間(6世紀初頃~1108年)に限定され,早くから818年の地震との対応が指摘されていた.これらの古代の地盤災害は,本断層から20km以内に分布し,本断層の活動に伴って発生した可能性を示唆する.6. 太田断層で発生する地震の予測 太田断層の全長(長さ18km)から,断層全体が一度に活動した場合,M6.9程度の地震が発生することが予測される.ただし,利根川右岸の埼玉県北部でも,古代の噴砂・地割れ跡が多数認められることを考えると,さらに断層が南へ延びる可能性は高い.そのため,地震の規模もさらに大きくなると予想される. 本断層の活動履歴について検討する.YP以降に断層活動があったことは確実である.最新活動の垂直変位量が1.2m以上である一方,YPを指標した場合,その量は約2mである.したがってYP以降の断層活動が1回か2回かは厳密には明らかにできない.ただし,中位面のその量は3~4mと小さいことから,活動間隔は長いものと考えられ,YP以降に1回の可能性が高い.