著者
黒川 行治
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.65-90, 1997-06-25

わが国では,将来支出予定の退職金を準備する形態として,会社内部への投資による準備と会社外部の基金の運用による積立とが併存しているため,会計においても,退職給与引当金会計と年金会計とが制度上併存している。そこで,本研究ではまず,これら二つの退職金制度について包括的に会計測定するとしたならば,どのように考えたらよいものかを両会計方法の計算構造から考察する。次に,退職金債務や発生勤務費用に関する以下のような代替的測定方法について,いくつかの前提事項を設定することで,各測定方法の一般式を導出し,各代替案の特徴を検討する。1.予測単位積増方式(発生給付評価方式) (1)国際会計基準や米国基準で言及されるもの 1)予測単位積増方式一定額制 2)予測単位積増-支給倍率加味方式 ア.予測給付債務 イ.累積給付債務 (2)わが国の基準 1)予測単位積増-給与加味方式 2)予測単位積増-給与・支給倍率加味方式 2.期末要支給額方式 3.定額拠出(積立)方式
著者
黒川 行治 高橋 正子 渡瀬 一紀
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.87-107, 1998-06

企業の決算行動を説明する要因を明らかにする研究の一環として,アンケート調査を実施した。企業の決算行動は,(1)企業・経営者の状況・属性,(2)アカウンティング・ポリシー,(3)重要性,(4)財務政策・財務上の要請の四つの分類に属する各種の要因によって説明できるのではないかという仮説を立てている。今回,これらの要因から50の質問事項を選択し,各社の経理部長宛に質問用紙を郵送し,回答結果を返送してもらう方法で1997年8月に調査を実施した。アンケート配布対象企業は,わが国における1997年6月6日現在の株式公
著者
黒川 行治
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.27-44, 2016-10

本論文の目的は, 会計の利害調整の機能・役割に関連する経営者の報酬と従業員の給料の格差の問題, 労働対価の分配の正義を公共哲学の観点から考察することである。企業の統治形態, 取締役会の位置づけについて, 古典的・伝統的モデル(所有主指向モデル), 修正モデル(企業体指向モデル), 社会企業モデル(多様な構成員指向モデル)の3つのモデルを検討し, コーポレートガバナンス・コードは, 修正モデルを前提としているが, 社会企業モデルに依拠しないと経営者の高額報酬の問題は解決しないことを示す。次に, 公共哲学の諸理論を援用すると, 経営者の高額報酬・大きな格差を肯定する論理とそれを否定する論理がそれぞれ複数存在するが, 筆者の私見では, ロールズの格差原理およびジョンストンの新しいバランスのとれた相互性の理論に依拠し, 大きな格差の存在には否定的である。最後に, 会計の利害調整機能・役割と労働対価の分配の正義との関連性について言及し結論とする。論文
著者
黒川 行治
出版者
森山書店
雑誌
會計 (ISSN:03872963)
巻号頁・発行日
vol.189, no.4, pp.465-468, 2016-04
著者
高橋 正子 黒川 行治
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.22-48, 1992-12-25

SEC連結基準採用会社をサンプルとし,産業効果モデルによって推定した残差リターンに基づく累積平均残差CARを計算し,決算発表された会計情報の内容とCARとの関係を分析することにより,会計情報の有用性の有無・程度を検討する。会計情報としては,(1)連結利益,(2)個別利益,(3)連結営業キャッシュ,(4)個別営業キャッシュ,(5)連結投資キャッシュ,(6)連結財務キャッシュ,(7)個別投資キャッシュ,(8)個別財務キャッシュの8種類である。なお,すべて1株当たりの数値に換算し,また対前期比を計算することにより実際値と予想値との乖離を求め,期待外の結果とする。分析は4つのパートから構成されている。(1)利益情報と営業キャッシュ情報との比較 上記(1)〜(4)の4つの情報について,対前期比がプラスの場合,その情報内容が好材料(good news)と判断し,逆にマイナスの場合,悪材料(bad news)と判断して,情報の好悪とCARとの関係を月毎の変動の形にグラフ化する。その結果,利益情報の好悪は,営業キャッシュ情報の好悪よりもCAR(株価)との関連性が強い。とくに,連結利益情報がもっとも顕著であり,逆に,個別営業キャッツュ情報の好悪は株価に関して殆ど差異をもたらしていない。(2)投資キャッシュと財務キャッシュ情報の有用性 上記(5)〜(8)の4つの情報について,対前期比が増加であるか減少であるかを当該情報の情報内容として,CARとの関係を月毎の変動の形にグラフ化する。その結果,連結または個別の投資キャッシュが増加する場合,-3月まではCARは殆ど上昇しない。また,連結または個別の財務キャッシュが減少する場合,-3月まではCARは殆ど上昇しない。連結財務キャッシュが減少する場合,+1月から+3月までのCARの上昇が顕著である。(3)数量化I類モデルによる会計情報の有用性の分析 数量化I類モデルにより,総合的に会計情報のCARへの影響を検討する。その結果,-3月で決定係数が最大となり,情報の好悪(増減)に対するCARの反応差が最も大きくなる。また,資金情報の利益情報に対する追加情報の有用性についてみると,営業キャッシュにはそれほど大きな追加情報内容がないが,投資キャッシュには連結・個別ともに追加情報内容がある。また,個別財務キャッシュには追加情報内容がないが,連結財務キャッシュには追加情報の有用性がある。(4)回帰モデルによる会計情報の有用性の分析 分析(1)〜(3)までは,会計情報の内容を名義測度でとらえ,当期の会計数値を予想(前期値)と比較し,それの好悪あるいは増減としての情報の有用性を分析したが,ここでは,会計情報の内容を比例測度でとらえ,対前期比の数値そのものあるいは対数変換するにとどめた会計情報を扱う。その結果,連結利益は決算月前および決算発表月前に有用で,CARに対して+にはたらく。営業キャッシュ情報には,連結・個別ともに有用性が低い。また,投資キャッシュ,財務キャッシュ情報は,連結・個別ともに有用であり,とくに,連結財務キャッシュ情報が決算月以後および決算短信発表月以後のCARに対して影響が最も有意で,分析(2)と同様マイナスにはたらく。最後に,日本基準の連結会計制度上,作成・開示が義務付けられていない連結キャッシュ情報は有用であることが判った。
著者
黒川 行治 高橋 正子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.41-51, 1992-08-25

株式投資決定を前提として,会計情報の有用性を問題とする場合,連結会計が主である米国では,発生主義にもとづく連結利益情報と現金主義にもとづく連結キャッシュ・フロー情報とが比較の対象となってきた。一方個別会計情報と連結会計情報とを併用して利用できる状況にあるわが国においては,個別利益情報,個別キャッシュ・フロー情報,連結利益情報,連結キャッシュ・フロー情報の4つが情報の有用性の比較対象となりうる。しかし,現在のところ,個別利益情報および連結利益情報の有用性が若干確認されたにとどまり,キャッシュ・フロー情報とくに連結キャッシュ・フロー情報の有用性の検証は行われていない。そこで,本研究の目的は,株式投資決定問題を前提として,上記の4つの情報の有用性を比較検討することである。なお,わが国固有の連結基準では,連結キャッシュ情報公開が要請されていず,上記4つの情報がすべて利用できるのは,SEC基準によって連結有価証券報告書を提出する会社だけなので,SEC連結基準適用会社をサンプルとする。分析方法としては,産業効果モデルによって推定した残差リターンにもとづく累積平均残差CARを計算し,決算発表された会計情報が好材料(good news)であるか,悪材料(bad news)であるかによって,決算発表前後でCARの動きが異なるか否かを検討するものである。ただし,会計情報としては上記の4種類があるので,好材料か悪材料かはそれぞれの情報毎に識別される。