著者
村上 裕 久松 定智 武智 礼央 黒河 由佳 松井 宏光
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2005, (Released:2020-11-10)
参考文献数
19

二次的自然としての水田やため池を繁殖場所として利用するトンボ類は、水稲の生育ステージや、ため池の植生、水位管理、周辺環境等が種個体群の存続を許容するものであったことから、水田面積の拡大とそれに伴うため池の造成により安定的な分布域を形成したものと考えられる。本研究は、ため池の水際を主な産卵場所として利用し、冬期に減水したため池の乾出した底質で卵が越冬する可能性を指摘されてきたオオキトンボを対象種とし、ため池の水位管理方針が幼虫発生に与える影響を研究した。現地調査として、本種の産卵行動が例年確認されているため池から無作為に抽出した 3地点で成熟個体および羽化後の未成熟個体のラインセンサスを行ったほか、ため池管理者へ水位管理に関する聞き取り調査を行った。また、ため池の満水位直下の砂礫を採集し、乾燥状態で管理後に翌春湛水して孵化した幼虫数を計測した。調査の結果、冬期に大きく減水したため池の干出した砂礫から多くの幼虫が発生した。ただし、他の池と同等の成熟個体が飛来し、産卵行動が確認され、冬期に減水していたにも関わらず孵化幼虫が認められないため池も存在した。