著者
小栗 友紀 角田 鉄人 加来 裕人 堀川 美津代 稲井 誠 黒田 英莉 鈴木 真也 田中 正己 伊藤 卓也 高橋 滋
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2014

<p> アブラムシの中には鮮やかな体色をもつものも多く,その体色表現にポリケタイド系色素が深く関わっていることが分かってきた.そして当研究室では,これまでにイタドリに寄生するユキヤナギアブラムシ(Aphis spiraecola,黄色)から黄色色素furanaphin<sup>1)</sup>を,セイタカアワダチソウに寄生するセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ(Uroleucon nigrotuberculatum,赤色)から赤色色素uroleuconaphin A<sub>1</sub>, B<sub>1</sub>,<sup>2)</sup>黄色色素xanthouroleuconaphin<sup>3)</sup>を,ソラマメヒゲナガアブラムシ(Megoura crassicauda,緑色)から緑色色素viridaphin A<sub>1</sub> glucoside<sup>4,5)</sup>を単離し構造決定した.その他,megouraphin glucoside A, Bやuroleuconaphin A<sub>2a,b</sub>, B<sub>2a,b</sub>の構造決定も行った (Fig. 1).一方,これら色素はポリケタイドであることから,生物活性も期待された.実際,</p><p>Fig. 1</p><p>ヒト前骨髄性白血病細胞 (HL-60)に対する細胞毒性試験を行ったところ,furanaphinのIC<sub>50</sub>は25 mM,uroleuconaphin A<sub>1</sub>では30 mM,uroleuconaphin B<sub>1</sub>が10 mM,viridaphin A<sub>1</sub> glucosideが23 mMと,弱いながらも細胞毒性を示した.このように当研究室ではアブラムシのもつ色素成分に注目して研究してきたが,今回は無色透明のアブラムシCryptomyzus sp.について調べた.当然のこととして,色素は存在しないと考えられるが,それに代わる何らかの化合物の存在を期待した.</p><p>1. 構造決定</p><p>1-a. 抽出と単離</p><p> Cryptomyzus sp.はヤブサンザシ(Ribes fasciculatum)の葉裏にひっそりと目立たず寄生している無色で透明感のあるアブラムシである.体長わずか0.5-1 mmの極小な昆虫であることから,テントウムシなどの捕食昆虫にとっては極めて発見しにくいものと思われる.このアブラムシを刷毛で掃き集め,エーテル中で潰して成分を抽出した.このエーテル抽出物を順相及び逆相クロマトグラフィーを繰り返し,4種の無色結晶cryptolactone A<sub>1 </sub>(1), A<sub>2 </sub>(2)(A<sub>1 </sub>: A<sub>2</sub> = 6.2:1)およびcryptolactone B<sub>1 </sub>(3), B<sub>2 </sub>(4) (B<sub>1 </sub>: B<sub>2</sub> = 4.7:1)を得た (Fig. 2).当然ながら着色成分は一切得られなかった.</p><p>Fig. 2</p><p>1-b. Cryptolactone A<sub>1</sub> (1)およびA<sub>2 </sub>(2)の構造</p><p> Cryptolactone A<sub>1 </sub>(1)の分子式はCI-HRMSよりC<sub>18</sub>H<sub>30</sub>O<sub>4</sub>と決定した.またIRスペクトルから水酸基 (3407 cm<sup>-1</sup>),カルボニル基 (1712 cm<sup>-1</sup>)の吸収が観測された.<sup>13</sup>C-NMRより18個の炭素シグナルが観測され,DEPTより1個のメチル基 [d<sub>C</sub>/d<sub>H</sub> 14.1/0.88],11個のメチレン基 [d<sub>C</sub>/d<sub>H</sub> 29.9/2.34 and 2.41, 41.5/1.75 and 1.82, 48.8/2.53 and 2.66, 43.6/2.43, 23.6/1.57, および 22.6, 29.1, 29.2, 29.3, 29.4, 31.8/1.26-1.32],4個のメチン基 [d<sub>C</sub>/d<sub>H</sub> 121.4/6.03, 145.2/6.89, 74.8/4.74, 63.7/4.39],2個のカルボニル炭素 [d<sub>C</sub> 164.2 and 212.2] の存在を確認した.またこれらデータから2個のオキシメチン基 [d<sub>C</sub>/d<sub>H</sub> 74.8/4.74, 63.7/4.39],2個のオレフィン炭素 [d<sub>C</sub>/d<sub>H</sub> 121.4/6.03, 145.2/6.89]の存在も確認できた.最終的にHMBC実験の詳細な検討により,化合物1はb-ヒドロキシケトン構造を側鎖にも</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>