著者
須貝 勝 平田 藍 齋藤 博子 大橋 恭彦 山田 彰 安孫子 修 井上 元保 平山 美麻 間宮 加奈 谷口 暁代 瀬尾 大樹 吉田 哲平 鶴見 太朗 永松 康太 和田 優子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,膝蓋骨脱臼に対して内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術が導入されており,概ね良好な結果が得られている。一方,術後リハビリテーションプロトコールについては様々な報告が行なわれており,一定の見解を得ていない。当院では,術後早期より再建靭帯に強度が得られるなどの理由から,人工靱帯を用いたMPFL再建術を行ない,術後早期より膝関節可動域運動等の理学療法を実施している。今回,当院におけるMPFL再建術後の膝関節可動域の完全屈曲獲得日数,ならびに膝蓋骨脱臼再発の有無の調査を行なった。その結果を踏まえた上で,早期膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性について検討したので報告する。【方法】対象は2006年12月~2012年6月までに当院にて人工靭帯(LK-15)を用いMPFL再建術を施行した反復性膝蓋骨脱臼患者のうち,経過を追うことができた17例22膝(平均年齢25.75(±9.92)歳,男性1名1膝,女性16名21膝)である。術中,膝屈曲60°にて再建靱帯を固定し,膝屈曲伸展全可動域にてlength patternを確認している。方法は,術後膝完全屈曲獲得日,術後1年後のCrosby&Install grading system,術前及び術後1年後のapprehension test,ならびに単純X線画像から膝屈曲30°のCongruence angle(正常値-6±11°)を測定し,膝蓋骨脱臼再発有無の調査を行なった。術後リハビリテーションプロトコールは,術後1日目よりQuad setting等の大腿四頭筋エクササイズ開始,3日目より膝屈曲45°からCPM開始し1日5°毎に屈曲角度を拡大する。5日目よりニーブレース装着下での部分荷重歩行及びセラピストによる膝関節可動域運動を開始,12日目よりパテラブレースでの全荷重歩行許可,2週目以降より症状に応じて階段昇降,自転車エルゴメーター,スクワット開始,8週目よりジョギング許可,16週でフルスポーツ許可となっている。【倫理的配慮,説明と同意】対象患者には治療,研究を目的に検査結果を使用することを事前に説明し,本研究の発表にあたり同意を得た。【結果】術後膝完全屈曲獲得日は平均80.9(±62.57)日であった。術後1年後のCrosby&Install grading systemは,Excellent,16膝(72.72%),Good,5膝(22.73%),Fair to poor,1膝(4.55%)であった。Fair to poorの1膝は術後感染による腫脹,疼痛の残存を認めていた。apprehension testは術前では全例陽性であったが,術後1年後では全例陰性となった。膝屈曲30°のCongruence angleは,術前では,平均22.61(±21.50)°であったが,術後1年後では平均-1.70(±17.40)°と正常化した。【考察】当院におけるMPFL再建術後の膝屈曲関節可動域獲得は良好であり,膝蓋骨脱臼再発も認めなかった。生体内の正常MPFLにおいては,膝屈曲60°までが膝蓋骨のstabilizerとして機能しており,MPFLは膝屈曲60°付近で最も緊張し膝蓋骨の制動効果が高いといわれている。また,MPFL再建術後においても,膝屈曲60°以上では再建靭帯にストレスはかからず,膝深屈曲位での5mm程度の緩みはむしろ生理的であり望ましいといわれている。したがって,膝屈曲60°までは再建靭帯へのストレスを考慮する必要があるが,膝屈曲60°以上の関節可動域運動は早期より実施可能であると考えた。本研究の結果,人工靱帯を用いたMPFL再建靱帯後における早期膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性が示唆された。膝蓋骨脱臼の病態は複雑かつ多様であるため,MPFL再建術後の理学療法を実施していく上では,軟部組織や骨形態などの先天的解剖学的因子に加え,内側広筋の筋収縮力や下肢のアライメントなどの膝関節に関わる安定化機構も考慮する必要がある。今回,人工靭帯を用いたMPFL再建術での調査報告であったが,今後,自家腱を用いた場合についても検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】MPFL再建術後の理学療法は,膝蓋骨制動機能及び膝蓋骨脱臼の病態を理解した上で,再建靱帯へのストレスを考慮して実施する必要がある。本研究は,MPFL再建術後早期からの膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性を示唆するものである。
著者
齋藤 博子 神保 隆行 須貝 勝 高橋 香保里 大橋 恭彦 山田 彰 井上 元保
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.354, 2006

<B><はじめに></B>近年、反復性膝蓋骨脱臼の要因として内側膝蓋大腿靭帯(以下MPFL)の重要性が指摘され、人工靭帯あるいは自家腱を用いた再建術が行なわれている。今回、自家腱を用いたMPFL再建術後の症例について、当院で実施している理学療法プログラムを中心に紹介する。<BR><B><症例紹介></B>17歳女性。高校では卓球部に所属。14歳で卓球の試合中に初回左膝蓋骨脱臼をきたし、その後3年間で計3回の脱臼歴あり。最終脱臼後に当院整形外科受診。術前理学療法を1ヶ月間(2回/週)行った後、左膝MPFL再建術を施行した。<BR><B><術前評価></B>関節可動域(以下ROM)制限なし。膝蓋骨異常可動性およびapprehension testは高度陽性で、kujala score56点。extension lag15°、BIODEX SYSTEM3を用いた筋力測定は60°/sec・180°/sec・300°/secの3スピードにて測定したがほとんど筋出力は得られず、それぞれ健側に対しての欠損率は膝伸展で97%、屈曲では99%であった。左大腿部は著明な筋萎縮がみられ、周径は5cm以上の左右差があった。歩行については左膝関節の円滑な動きが損なわれている印象が得られた。<BR><B><理学療法プログラム></B>手術翌日からSLR・セッティング等の大腿四頭筋訓練、2日目からCPMでのROM訓練、3・4日目からニーブレース装着下での部分荷重歩行、5日目から端座位での膝伸展、セラピストによるROM訓練、6日目からパテラブレースでの全荷重歩行、10日目から階段昇降、2週目から自転車エルゴメーター、4週目からスクワット、8週目からジョギング開始、16週でフルスポーツ許可とした。<BR><B><術後評価></B>術後9週時点において、膝蓋骨異常可動性およびapprehension testは陰性で、kujala score75点。膝ROM制限なし。extension lag5°BIODEX SYSTEM3による筋力測定での健側に対する欠損率は膝伸展68%、屈曲33%であった。大腿周径の左右差は3cm以内と改善、歩行は術前と比較して、いくぶん改善傾向がみられた。<BR><B><考察></B>近年、機能解剖学的および生体力学的研究から、MPFLは膝蓋骨内側支持機構の第1制御因子であることが証明されている。当院では、膝蓋骨内側支持機構の第1制御機構であるMPFLは第一に再建するべきであり、その上で種々の先天的解剖学的因子の有無に応じて付加的手術を行うかを決定するのが合理的であると考えて、MPFL再建術を行っている。膝蓋大腿関節は屈曲角度が大きくなるにつれて骨形態により安定するため、特に膝伸展位から屈曲90°範囲でのMPFLの機能が重要であるとされている。よってMPFL再建術後のROM訓練では、屈曲90°までを慎重に行うことが重要と考えられる。<BR> MPFLの膝蓋骨側約1/3は内側広筋遠位部の後面に癒合している。手術時にはこの部分の剥離を行ううえ、術前からの筋萎縮が強い症例が多い。また、術後膝蓋骨が内側へ矯正されることで内側広筋の筋収縮の感覚が得られ難い。そのため今回の症例のように術後の筋力回復、extension lagの改善が困難であることが多いと考えられる。以上よりMPFL再建術後の理学療法に関して最も重要となる点は、慎重なROM訓練と膝筋力の獲得であるといえる。