著者
齋藤 実穂
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

「地球と太陽(太陽風)の相互作用からどのような物理過程で、オーロラ現象が引き起こされるのか」、その過程を明らかにするために、人工衛星の観測データの解析を行った。これまで調べることが難しかったオーロラ現象の源の構造、特に電流層の構造を調べることから、プラズマ物理を用いたオーロラ現象の説明を試みた。THEMIS衛星群を用いた電流観測から、「磁気圏尾部の電流経路」、「サブストームの発生源(起電力)」、「磁気圏のエネルギー収支」がわかるようになることが期待できる。また電流密度の構造と理論研究を合わせることにより磁気圏尾部プラズマシートが安定的に存在できるのか議論できるようにするための基礎的な知見を得ることができた。研究では、 複数の人工衛星を用いた磁気圏尾部の解析方法を開発し、電流密度を直接調べることを可能にした。開発した解析手法は、2007年にNASAが打ち上げたTHEMIS衛星群5機を用いて実際の観測データへ適用をした。2007年から2014年の観測事例を調べ統計的な性質を得ることができた。次に平均的な状態と比べて、サブストーム(オーロラ嵐)ときにどのような特徴が見られるのかを調べた。これまで磁気圏で電流密度が高くなる場合は、サブストームの成長相と考えられていたが、発達相にも高くなることを初めて示すことができた。ストーム開始時の電流系のモデルを構築し、プラズマシートの東西非対称の特徴を観測データから明らかにした。
著者
齋藤 実穂 齋藤 義文 向井 利典 浅村 和史
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-33, 2005-11

本研究の目的は,磁気圏in-situ 高温プラズマ観測において,電子ダイナミクスを解明する高い時間分解能を得ることができる,新しい方式による検出部の開発である.MCP(microchannelplates)と位置検出マルチアノードからなり,ASIC(Application specific integrated circuit)技術を取り入れるところが新しい.ASICとマルチアノードの組み合わせは,最も高速な信号処理を可能にするだけでなく,同時に小型,軽量,低消費電力な検出部になると期待が持てる.これを可能にする基盤技術は,ASICをアノード基板(セラミック)の裏面へ直接搭載することである.アノード表面は,多数の個別アノードを構成する導体パターンが,プリントしてある.このアノード基板をはさんだ,表と裏の導体パターンによる静電容量を,信号検出に用いる.これは,アノード表面の高電圧と信号処理系を絶縁する,高電圧絶縁コンデンサーの代用である.アノード基板は,厚さ1mmのアルミナであり,導体パターンでつくる.基板利用コンデンサーの静電容量は3pFである.これは通常,信号検出に用いられる,高電圧絶縁コンデンサーの静電容量より2桁小さい.高電圧絶縁コンデンサーを,この極めて小さい静電容量で代用できるかというのは,小型化を目的としてた電子検出部として,ASICを採用できるかどうかの決定要素であった.しかしながら,われわれの実験結果は,低静電容量による信号の減衰はあっても約50%であることを示した.厚さ1mmというのは,構造強度の要求を満たすので,この基板利用コンデンサーは,衛星搭載機器に利用できる設計概念である.次に個別アノード間の静電カップリングを測定した.多くの個別アノードが有効面積を大きくとれるように互いに隣接した構造をとる.マルチアノードシステムでは,重要な検討項目である.その結果,基板利用コンデンサーを使用するアノードは,隣接する個別アノード間に10%のクロストークがあった.一方で,アノードと処理系を直結させる場合では,電気的クロストークは無視できるレベルである.よって,電気的クロストークも,基板利用コンデンサーの低い静電容量の影響である.10%のクロストークは,アノード運用時,信号レベルの適切な設定により十分回避できる大きさであるが,将来的には,静電容量を大きくとるほうが望ましく,今後の課題である.今回,ASICはローレンスバークレー研究所が開発してきたSSD用の荷電アンプ,ディスクリミネータ,カウンターまでを含むチップを用い,マルチアノードを試作した.このチップのサイズは,およそ1.2mm×1.2mmである.実際に,イオンビームを照射し,試験した結果,われわれの新しいタイプのマルチアノードは,さらに研究を進める必要があるものの将来の磁気圏ミッションで,高時間分解能な高温プラズマ観測へ適用可能できると結論する.