著者
福島 昭治 森村 圭一朗 鰐渕 英機 ALINA M Romanenko
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

ウクライナのチェルノブイリ原発事故後、周辺汚染地域では過去15年間で膀胱癌の発生頻度が約1.6倍に上昇したと報告されている。その原因として現在も土壌中に残存する低レベルCs137の長期間暴露が考えられる。我々は臨床的に膀胱がん症状のない汚染地域住民の膀胱粘膜に、上皮異形成や上皮内がんを含む膀胱がんの発生率が、汚染地域住民の24時間尿におけるCs137レベルにほぼ比例して上昇していることを見いだした。我々はまた、汚染地域住民の膀胱に上皮異形成や粘膜内癌を高頻度に伴う特異的な慢性増殖性膀胱炎を見いだしチェルノブイリ膀胱炎と命名した。その膀胱病変においてはp53,p21,サイクリンD1等、様々な癌関連遺伝子が異常発現していると共にiNOS, COX2なども異常発現しており、この地域の膀胱病変発生には酸化的ストレス傷害が深く関与することを証明した。さらに、原発事故後に認められた膀胱癌が事故前に同地域で得られた膀胱癌と比べp53遺伝子変異頻度が有意に低く、この地域の膀胱癌発生のメカニズムが一般的な膀胱発癌と異なった経路で発症する可能性が示唆されたため、近年その異常発現がヒト膀胱発癌に深く関与すると考えられているgrowth factor receptorの発現を免疫組織学的に検索した。その結果、抗FGF-R3、抗EGF-R1、抗EGF-R2抗体について汚染地域の症例は非汚染地域症例に比べ有意に高い染色性を示し、汚染地域住民の膀胱粘膜病変の発生にはこれらgrowth factor receptorの発現も関与していることが判明した。以上、これまでの研究によりチェルノブイリ原発事故後の周辺汚染地域住民には膀胱癌が多発する傾向にあり、またその発生原因に関しては現在一般的に考えられている膀胱発癌経路と異なった経路で発生する可能性があることが示された。