- 著者
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福島 昭治
加藤 俊男
白井 智之
- 出版者
- 名古屋市立大学
- 雑誌
- がん特別研究
- 巻号頁・発行日
- 1990
発癌物質ならびに発癌プロモ-タ-やインヒビタ-などが相互に関連して作用することによりin vivoでの発癌がどのように修飾されるかを多重癌モデルを用いて個体レベルで総合的に解析した。F344雄ラットを用い,五種類の発癌物質,DEN,MNU,DHPN,BBN,DMHを短期間に順次投与し,その後2%BHA,0.8%カテコ-ル,2% 3ーメトキシカテコ-ル(3ーMC)を0.3%亜硝酸塩との同時投与,あるいはそれぞれを単独投与すると,前胃では扁平上皮癌の発生がカテコ-ル単独群に比較し,カテコ-ルと亜硝酸塩を同時投与した群で有意に増加した。またBHA,3ーMCの群では亜硝酸塩の同時投与による増強効果はみられなかった。腺胃では3ーMC投与による腺腫の発生が亜硝酸塩の同時投与により有意に減少した。食道においてカテコ-ル,3ーMC投与により増加傾向を示した乳頭腫の発生が亜硝酸塩の同時投与によりさらに増加した。このように酸化防止剤は亜硝酸塩の存在下では単独投与とは異なった修飾作用を示すことが明らかとなった。さらに,DEN,MNU,DHPN処置による多重癌モデルを用いて,ニンニクの抽出成分であるジアリル・サルファイド(DS)とジアリル・ジサルファイド(DDS)の発癌修飾作用を検索すると,これまで発癌抑制として注目されてきたDSは肝の前癌病変であるGSTーP陽性細胞巣と甲状腺の過形成の発生を促進させることが判明した。また,DDSは大腸と腎発癌を抑制した。その他の臓器の腫瘍の発生にはDS,DDSとも何らの修飾効果を及ぼさなかった。以上,亜硝酸の酸化防止剤への添加は酸化防止剤のもつ発癌修飾作用を相乗的に増強,あるいは抑制させ,またDSが肝及び甲状腺発癌を促進するという従来とは異なった発癌修飾作用が示された。さらに,この変動には標的臓器における細胞増殖が重要な鍵を握っていると推測された。