著者
Ahmad Sayeed 小葉田 亨 高見 晋一
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.p327-332, 1986-09

作物の干ばつ抵抗性は, 乾燥耐性(植物体水ポテンシャルの低下にともなう生育阻害, 障害の発現程度)と, 乾燥回避性(環境の乾燥化にともなう水ポテンシャルの低下程度)とに依存するものと考えられる. 本研究は, これら2つの機構がイネ幼植物の干ばつ下における生存能力の品種間差にどのように関与しているかを明かにしようとした. 第1の実験では, 主として根圏の違いに起因する回避性の影響を除くため, 小容量(0.5 L)のポットに日本型稲4品種(水稲1, 陸稲3品種)を栽培し, 第6葉期に断水処理をおこなった. その結果, 全品種とも葉身の水ポテンシャルはほば同様に低下したにもかかわらず, 葉身の枯死程度は, 水稲が最も小さかった. 第2の実験では, 比較的大容量(4 L)のポットに, 日本型, インド型稲5品種(水稲2, 陸稲3品種)を栽培し, やはり第6葉期に断水処理をおこなった. その結果, 日本型, インド型稲とも, 陸稲の方が水稲より日中の葉身水ポテンシャルは高かったが, 生存程度には一定の傾向が見られなかった. 従って, イネ幼植物の干ばつ下における生存能力の品種間差は, (1)根圏が制限された条件下では耐性によって, (2)根圏が大きくなり得る条件下では主として回避性によってもたらされるものと結論される.