著者
小松 賢志 DOMINIQUE Sm CORRY Weemae 田内 広 松浦 伸也 WEEMAES Corry SMEETS Dominique SMEETS Domin WEEMAES Corr 遠藤 暁
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ナイミ-ヘン染色体不安定症候群(Nijmegen Breakage Syndrome:NBS)は、小頭症、鳥様顔貌、免疫不全および高発癌性を特徴とする染色体不安定症候群である。細胞学的には放射線高感受性と染色体不安定性など毛細血管拡張性運動失調症ATと類似した所見を示す。NBSの原因染色体を同定するため、我々は各種ヒト染色体ならびに放射線照射により断片化した染色体のNBS細胞への微小核移入を試みた。この結果、8q21-24の領域だけがNBS細胞の放射線感受性を回復させることからNBS遺伝子を同領域にマッピングした。続いて、近親婚のオランダ人家系を用いたホモ接合体マッピングでNBS遺伝子を8q21の7cMの領域にさらに限局した。同様に、NBSの3家系と5例の患者でハプロタイプ解析を行った結果、D8S271からD8S270までのlcM以内の領域に1例を除く8例すべての患者で遺伝子型が一致し、NBSの連鎖不平衡が示唆された。このことは、NBSには創始者効果が存在し、NBS原因遺伝子はD8S1811の近傍に位置すると考えられた。現在、この結果を機能的相補性により確認するために、候補領域からスクリーニングされたYACおよびBAC DNAの移入によるNBS細胞の放射線感受性回復試験を行っている。またNBS遺伝子のクローニングを目的として、D8Sl811マーカーを中心とした約500kbの領域の遺伝子地図の作製を進めており、いくつかの既知および未知のcDNAクローンを単離している。一方、ATMおよびNBS遺伝子機能の1つとしてDNA損傷によるp53を介した細胞内シグナル伝達経路が示唆されている。放射線照射後の細胞内p53およびp21をウェスタンブロットで測定した結果、NBSとAT細胞のp53ならびにp21発現が正常細胞に比較して低下していることが明らかとなった。しかし、NBS細胞ではAT細胞にみられるp53発現時期の遅れはなく、発現低下量もAT細胞と異なっていた。このことはNBS原因遺伝子とATMとの厳密な機能の違いを示唆された。