著者
小松 賢志
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.940-945, 1998-12-30 (Released:2009-03-31)
参考文献数
4

核融合実験炉建設計画に際して,トリチウム人体影響の推定が社会的な大きな関心を集めている。トリチウムによる人体影響を推定するには,原爆被爆者などγ線による人体障害とトリチウム生物実験により求められたRBEから推定しなければならない。現在までにトリチウムRBEに関しては膨大なデータが集積されているが,このうち発癌についてはRBE=2が妥当と思われる。これによれば, 1.4×108Bq (3.7mCi)のトリチウム摂取により1万人に1人の発癌リスクの増加が予想される。一方,体外被曝のγ線と異なり,トリチウムは水素同位体として生体構成成分と結合し,長期間にわたって被曝を続ける可能性がある。特にトリチウムのDNA結合能は遺伝子損傷に直結する可能性を含んでいる。しかし,細胞内に存在するDNA修復機構によりDNA損傷の大部分が修復されるために, DNA結合型トリチウムによるリスクの増加は体外被曝γ線のわずか2倍程度と見なされること,また実験室内モデルエコシステム実験によれば,トリチウムは生物濃縮されないことが推論された。一方,トリチウムの低線量率効果としては賀田効果とホルミーシス効果が知られている。賀田効果が生じる実験条件は試験管内の作用に限られているが,ホルミーシス効果は多くの生物系で報告されており,そのリスク推定における重要性から,実験値の信頼性やその作用機序など低線量率効果について,今後さらに検討する必要がある。
著者
小松 賢志
出版者
富山大学水素同位体機能研究センター
雑誌
富山大学水素同位体機能研究センター研究報告 (ISSN:09168486)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.13-25, 1997

Since tritium is an emitter of weak β-ray (5.7keV) and is able to bind to DNA, i.e., the most important genome component, the biological effects should be expected to be more profound than that of X-rays and γ-rays. When carcinogenesis, genetic effects and the detriments for fetus and embryo were used as a biological endpoint, most of tritium RBE (relative biological effectiveness) ranged from 1 to 2. The tritium risk is man could be calculated from these RBEs andγ-ray risk from human exposure, which are obtained mainly from the data on Atomic Bomb survivors. However, the exposure modality from environmental tritium should be a chronic irradiation with ultra low dose rate or a fractionated irradiation. We must estimate the tritium effect in man based on biological experiments alone, due to lack of such epidemiological data. Low dose rate experiment should be always accompanied by the statistical problem of data, since their biological effects are fairy low, and they should involve a possible repair system, such as adaptive response (or hormesis effect) and “Kada effect” observed in bacteria. Here we discuss future works for the tritium assessment in man, such as (1) developing a high radiation sensitive assay system with rodent hybrid cells containing a single human chromosome and also (2) study on mammal DNA repair at molecular levels using a radiosensitive disease, Nijmegen Breakage Syndrome.
著者
田内 広 井上 昌尚 大原 麻希 須坂 壮 松本 英悟 小松 賢志 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.194, 2008 (Released:2008-10-15)

低線量率・低線量被曝による生物学的影響は、実験的裏付けが少ないために、放射線防護では高線量被曝データの直接的外挿から推定されているのが現状である。また、高LET放射線による体細胞突然変異では逆線量率効果といった特異な現象も報告されており、低線量率放射線被曝の生物影響解明は、科学的根拠に基づく放射線リスク評価のための重要課題でもある。我々は、トリチウムβ線による生物影響が低線量・低線量率でどのようになるのかを実験的に解明するために、体細胞突然変異の高感度検出系を開発し、低線量率のトリチウムβ線照射によるHprt欠損突然変異誘発を解析している。この突然変異高感度検出系は、Hprt遺伝子を欠失したハムスター細胞に正常ヒトX染色体を導入した細胞を用いており、従来の50~100倍の頻度で突然変異が誘発され、0.2GyのX線でも明らかな突然変異頻度上昇を検出できる。本研究ではトリチウム水(HTO)を培養液に添加し、線量率0.13~2.3cGy/hの範囲で0.3Gyの照射を行って突然変異誘発効果を解析した。その結果、中性子で逆線量率効果が認められる0.2cGy/h以下の線量率においても、誘発突然変異頻度の明らかな増加は認められなかったので、トリチウムβ線では、少なくとも0.13cGy/hまでは逆線量率効果は生じないことが示唆された。現在、さらに低い線量・線量率での実験を行っており、その結果を合わせて発表する予定である。また、得られた変異体クローンのヒトX染色体に起こった欠失範囲の解析により、低線量・低線量率では突然変異スペクトルが自然発生のスペクトルに近づくことが示唆された。
著者
小松 賢志 坂本 修一 小林 純也 松浦 伸也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本報告では、放射線感受性、染色体不安定性(ゲノム不安定性)ならびに高発がん性のヒト劣性遺伝病の責任蛋白が相同組換えの蛋白であることを示した。この事は、生命維持に根元的で有ると思われていた相同組換えが欠損してもヒトは生存可能であることを初めて報告しただけでなく、相同組換え異常がゲノム不安定性と高発がん性をもたらす可能性をヒト遺伝病で示した。また、NBS1の細胞内機能としては、相同組換えに必要と思われているMRE11ヌクレースと複合体を形成後に、ヒストンH2AXとの相互作用によりにMRE11をDNA二重鎖切断部位にリクルートする機構を明らかにした。その一方で、NBS1は日本人に多い早老症ワーナー症候群の蛋白WRNと相互作用することや、DNA鎖架橋剤に高感受性を示すヒト劣性遺伝病ファンコニー貧血の蛋白FANCと複合体を形成することを報告した。これら相互作用のDNA二重鎖切断修復における意味は不明であるが、細胞内では種々の蛋白による細胞内修復ネットワークによりゲノム安定化が保たれている。また、ナイミーヘン症候群ならび毛細血管拡張性運動失調症とMre11欠損遺伝病の毛細血管拡張性運動失調症類似疾患は似たような細胞学的特性を呈する。実際に、NBS1,MRE11,ATMはともに放射線照射後のチェックポイントに機能することが判明した。しかしながら、NBS1,MRE11は修復に必須であるが、ATMはそうでないことから、NBS1,MRE11,ATMの中で特にNBS1がチェックポイントと修復のシグナルの十字路になっていることが示された。
著者
田内 広 和久 弘幸 屋良 早香 松本 英悟 岩田 佳之 笠井(江口) 清美 古澤 佳也 小松 賢志 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.79, 2010 (Released:2010-12-01)

高LET放射線に特異な生物現象として、体細胞突然変異や細胞癌化において線量率が非常に低くなると逆に生物影響が大きくなるという逆線量率効果が知られている。この現象は1978年にHillらによって初めて報告されたものであるが、その原因はいまだに明らかになっていない。我々は、マウスL5178Y細胞のHPRT欠損突然変異における核分裂中性子の逆線量率効果が、低線量率照射による細胞周期構成の変化と、G2/M期細胞が中性子誘発突然変異に高感受性であることに起因することを報告し、さらに放医研HIMACの炭素イオンビーム(290 MeV/u)を用いて同様の実験をおこなって、放射線の粒子種ではなくLETそのものがG2/M期細胞の突然変異感受性に大きな影響を与えていることを明らかにした。また、各細胞周期において異なるLETによって誘発された突然変異体のHprt遺伝子座を解析した結果、G2/M期細胞が高LETで照射された時に大きな欠失が増加することがわかり、G2/M期被ばくではDNA損傷修復機構がLETによって変化していることが示唆された。さらに、正常ヒトX染色体を移入したHPRT欠損ハムスター細胞を用いた突然変異の高感度検出系を開発し、総線量を減らすことによってHIMACのような限られたマシンタイムでの低線量率照射実験を可能にした。実際、この系を用いてLET 13.3 KeV/μmと66 KeV/μmの炭素イオンビーム(290 MeV/u)で突然変異の線量率依存性を比較した結果、66 KeV/μmで明らかな逆線量率効果が認められたのに対して13.3 KeV/μmでは逆線量率効果は認められなかった。これらのことから、高LET放射線による逆線量率効果は低線量照射による細胞周期の部分同調とG2/M期における高LET放射線損傷に対する修復機構の変化に起因していると考えられる。
著者
大西 武雄 小松 賢志 丹羽 太貫 内海 博司 渡邉 正己 法村 俊之
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)センサー・緩照射は、NOを介したバイスタンダー効果により蓄積誘導された正常型p53の衰退を促進し、このp53の衰退促進はHdm2による分解促進であることが示唆された。(福井医大・松本)・低線量放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断の認識は、NBS1がはじめに損傷部位のヒストンを認識してヌクレアーゼを損傷部位にリクルートして、次にヌクレアーゼが損傷DNAに結合する二段階機構が明らかになった。(広大・小松)(2)情報伝達・あらかじめの低線量放射線の線量と、次の致死線量の被曝までのインターバルがマウス個体における適応応答に重要であることを明らかにした。(奈良医大・大西)・極低線量の放射線は細胞核由来の情報伝達経路は活性化せず細胞膜由来のERK1/2を経由する細胞内シグナル伝達系を活性化し、ヒストンH3のリン酸化を起こすことがわかった。(長崎大・渡辺)(3)適応を含む機能発現・放射線高感受性のマウス胸腺リンパ腫由来3SB細胞は、低線量照射後短時間の内にアポトーシスで死滅するが、線量率効果が見られなかった。(広大・鈴木)・低線量率照射での生存率上昇は、KU70欠損では観察されず、RAD54及びATM欠損細胞では観察され、低線量率照射回復は相同組換えではなく非相同組換えが主要な経路であることを明らかにした。(京大・内海)・p53依存性アポトーシスを介した組織修復機構がDNA修復機構と協調して働けば、低線量(率)放射線による少々の遺伝子損傷は効率的に排除され、その蓄積は起こらないことを明らかにした。(産業医大・法村)・低線量放射線により誘発される突然変異の質は、生殖腺細胞では欠失型変異の誘発が少なく、体細胞組織とは異なるDNA修復機構をもっていることが示唆された。(東北大・小野)・低線量放射線照射した精子のDNA損傷は遅延的に体細胞突然変異を誘発した。(京大・丹羽)
著者
小松 賢志
出版者
富山大学
雑誌
富山大学水素同位体機能研究センター研究報告 : Toyama Daigaku Suiso Doitai Kino Kenkyu Senta kenkyu hokoku (ISSN:09168486)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.13-25, 1997

Since tritium is an emitter of weak β-ray (5.7keV) and is able to bind to DNA, i.e., the most important genome component, the biological effects should be expected to be more profound than that of X-rays and γ-rays. When carcinogenesis, genetic effects and the detriments for fetus and embryo were used as a biological endpoint, most of tritium RBE (relative biological effectiveness) ranged from 1 to 2. The tritium risk is man could be calculated from these RBEs andγ-ray risk from human exposure, which are obtained mainly from the data on Atomic Bomb survivors. However, the exposure modality from environmental tritium should be a chronic irradiation with ultra low dose rate or a fractionated irradiation. We must estimate the tritium effect in man based on biological experiments alone, due to lack of such epidemiological data. Low dose rate experiment should be always accompanied by the statistical problem of data, since their biological effects are fairy low, and they should involve a possible repair system, such as adaptive response (or hormesis effect) and "Kada effect" observed in bacteria. Here we discuss future works for the tritium assessment in man, such as (1) developing a high radiation sensitive assay system with rodent hybrid cells containing a single human chromosome and also (2) study on mammal DNA repair at molecular levels using a radiosensitive disease, Nijmegen Breakage Syndrome.