著者
坂井 進一郎 PANG Peter K STOCKIGT Joa PONGLUX Dhav TONGROCH Pav 北島 満里子 堀江 俊治 高山 廣光 矢野 眞吾 渡辺 裕司 渡辺 和夫 相見 則郎 KTPANG Peter JOACHIM Stoc DHAVADEE Pon PAVICH Tongr JOACHIM Sto PETER KT Pa DHAVADEE Po PAVICH Tong PETER KT Pan 池上 文雄
出版者
千葉大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

アカネ科植物ミトラガイナ・スペシオ-サ(Mitragyna speciosa)葉部は、タイ国内では"Kratom"、マレーシア国内では"Biak Biak"と呼ばれる伝承民間薬であり、麻薬様作用:中枢神経抑制効果(阿片様作用)と中枢神経興奮効果(コカイン様作用)及び止瀉作用が知られていた。本植物に含まれる有効成分に焦点を当てて、日本、タイ、ドイツ、カナダの研究者がそれぞれの専門領域の研究分野で協力することにより、化学と薬理の両面からの究明研究を行なった。化学面では、タイ産植物葉部の詳細な成分検索を行ない、主塩基Mitragynineと共に新化合物を含む数種の微量塩基を単離構造決定した。更に、主塩基Mitragynineの集約的ルートによる不斉全合成法を開拓することができた。また、Mitragynineの菌代謝産物として報告されたプソイドインドキシル体やMitragynineオキシインドールも化学変換により合成し、これらの立体化学を明らかにすると共に、薬理活性評価用検体として供した。更に、マレーシア産Mitragyna speciosa葉部のアルカロイドについても化学的研究を行い、新規化合物の単離と共にピリドン型ミトラガイナアルカロイドの基本骨格合成を達成することができた。一方、薬理面での成果としては以下の点があげられる。主成分Mitragynineの中枢作用について検討を行い、Mitragynineに強力な鎮痛作用を見い出した。さらに末梢作用として、平滑筋収縮抑制作用を見い出した。輸精管標本を用いた検討から、末梢作用の作用機序としてMitragynineが神経の節後線維に作用し、神経伝達物質の放出を抑制することが考えられた。神経由来細胞を用い、パッチクランプ、蛍光色素法などを駆使して解析した結果、Mitragynineの神経伝達物質遊離抑制作用には神経のT型およびL型Caチャネル遮断作用が関与していると推定した。また、モルモット回腸標本に用いた検討から、Mitragynineはオピオイド作用も有していることが判明した。その効力はMorphineの1/6であった。Mitragynineの微生物代謝物Pseudoindoxyl体にもオピオイド作用が認められ、その効力はMorphineの約20倍強力であった。そこで、これらの化合物についてオピオイド受容体結合実験を行い、両アルカロイドは特にμ受容体に親和性が高いことを見い出した。これらのMitragynineの末梢作用はその鎮痛作用機序に関連していると考えられる。Mitragynineの構造に類似する釣藤鈎アルカロイドおよび母核のIndoloqunolitidine誘導体を用いて、オピオイド作用の構造活性相関的検討を行った。該結果、Mitragynineの9位メトキシル基が作用発現に必須であることが明らかとなった。また、そのメトキシル基と4位の窒素の位置関係が効力を左右していると推察した。また、Mitragynineの中枢作用に関する研究で以下の成果を得た。脳内5-HT2A受容体作動薬をマウスに投与すると"首振り行動"が発現する。本行動に対するMitragynineの影響を検討した結果、Mitragynineは用量依存的な抑制効果を示した。Mitragynineの抑制作用はNoradrenaline枯渇薬及び5-HT枯渇薬の影響を受けず,α2受容体拮抗薬で解除されたことから、Mitragynineがシナプス後膜α2受容体刺激作用または5-HT2A受容体遮断作用を有することが示唆された。Mitragynineをマウスに腹腔内あるいは脳室内投与(i.c.v.)すると顕著な鎮痛作用が認められた。i.c.v.投与したMitragynineの鎮痛作用はオピオイド拮抗薬Naloxone(i.c.v.),α2受容体拮抗薬および5-HT受容体拮抗薬(i.c.v.,orくも膜下腔内投与)で抑制された。従って1)Mitragynine自身が脳内で作用して鎮痛作用を発現しうること,および2)この鎮痛作用に上位オピオイド受容体及び下降性モノアミン神経系が関与することが推察された。この様に、ミトラガイナアルカロイドに種々の特異的かつ有効な薬理活性が見出された。これらアルカロイドは今後、医薬品の開発、薬理作用機序の観点から興味深い素材と考えられる。上記研究と平行して、タイ産Uncaria,Nauclea,Hunteria、及びVemonia属植物の化学的検索及び薬理学的評価も実施した。
著者
相見 則郎 PONGLUX D. OBITZ P. STOCKIGT J. 北島 満里子 高山 廣光 坂井 進一郎 STOCKIGT Joachim PONGLUX Dhavadee DHAVADEE Pon CARL M Ruyte JOACHIM Stoe
出版者
千葉大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

多くの生物種が医薬品資源としての潜在的価値を持ったまま環境破壊などのため姿を消して行く現在、「遺伝子資源の持続可能な利用」は極めて緊急度の高い研究課題である。本課題研究に於いては、ドイツ、タイとの緊密な協力態勢のもと、主として熱帯産のアルカロイド含有医薬資源植物について細胞培養による物質生産を目的とする国際共同研究を行った。1.キョウチクトウ科植物に関する研究-(1)Rauwolfia serpentinaとRhazya strictaのプロトプラスト融合細胞の生産アルカロイド-標記懸濁培養細胞について生産アルカロイドの精密分離を行った結果モノテルペノイドインドールアルカロイド2種(16(R)-18,19-E-Isositosirikineと5(S)-5-Carbomethoxystrictosidine)、β-カルボリン系化合物3種、(β-Carboline,1-Acetyl-β-carboline,1-carbomethoxy-β-carboline)、を得た。この結果種間融合細胞に於いてもアルカロイド生産機能が保持されていることを明確にすることが出来た。(2).タイ産キョウチクトウ科植物Hunteria zeylanicaの含有アルカロイド-本植物の葉部配糖体画分から、新規アルカロイドHunteriosideを得た。本物質は、Strictosidinic acidの糖部6'位に更にもう一分子のD-グルコースがα-型に結合しているものであることを明らかにした。Strictosidineはモノテルペンインドールアルカロイドの共通生合成中間体で古くから注目されているところであり、現在ではその生合成酵素の精製を経てc-DNAのクローニングまで行われている。Strictosidine関連の天然アルカロイドは現在まで30種以上知られているが、その糖部分に二糖結合を有するものは全く知られていず、今回のHunteriosideの天然界からの単離は極めて興味ある事実である。Hunteria zeylanicaにはHunterioside以外にも同系列の配糖体アルカロイド数種の存在が認められており、それらの追求、或いはHunteriosideの化学合成、更に植物からのカルス誘導などが今後の研究課題となる。2.アカネ科Ophiorrhiza属植物のアルカロイド-(1)アカネ科Ophiorrhiza属植物含有アルカロイド-チャボイナモリ(Ophiorrhiza pumila)はわが国鹿児島県島嶼部から沖縄県琉球列島にかけて分布する小型草本であるが、我々は先にこの植物にカンプトテシンが含有されることを明らかにした。沖縄県石垣島の一部に自生するクロタキカズラ科の木本植物、クサミズキと並んで、我国の貴重なカンプトテシン含有植物である。チャボイナモリについて特に注目されるもう一つの点は、カンプトテシン生合成の仮想中間体として存在が予想されながら天然から見出されないできた鍵分子を特異的に含有することである。1992年に本植物から得られた新規物質Chabosideについて全合成を達成した。(2)チャボイナモリの組織培養、懸濁細胞培養と器官再分化の研究-ドイツ側分担者Stoeckigt博士との共同研究の結果、本植物のカルス化、組織培養、つづいて懸濁細胞培養の条件確立に成功した。更に最近カルスの器官再分化により幼植物体を得る試みに成功した。この結果はチャボイナモリの大量増殖に道を開くものであり、更にウイルスフリー株の取得などを通して関連研究への展開が期待される。(3)チャボイナモリ培養細胞のアルカロイド生産機能の発現に関する研究-マインツ大学に於いて取得された培養細胞について千葉大学で二次代謝産物の究明研究を行ったところ期待されたカンプトテシン関連含窒素化合物の検知には成功せず、代わりにアントラキノン系色素3種を得た。これらアントラキノンは野生種には全く含有されない物質であった。類似の事実が同じくアカネ科の資源植物Chinchona属植物の培養細胞についても報告されていて両者の類似性に興味が持たれる。現在この培養細胞系について、アルカロイド生成機能の発現に関する研究を継続して行っている。