著者
廣田 篤 HIROTA Atsushi
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:18815545)
巻号頁・発行日
no.34, pp.65-75, 2017-09-29

本論では, Langackerの認知文法の枠組みに沿って, A whale is no more a fish than a horse is. に代表される, いわゆる「クジラ構文」と呼ばれるNo more A than B 構文の下位構文を取り上げ. その個々の構成要素の意味構造から成る合成構造を記述することで. その構文で実際に言語化された「意味論的意味」の構造を明らかにする。 その上で,「文全体の意味は個々の構成要 素(部分)の意味の総和以上のものである」という構文のゲシュタルト性を考慮した「構文的意味」が.「意味論的意味」とどのような点において異なるのかを検討する。 つまり.「クジラ構文」の「構文的意味」に反映している認知の特徴的なあり方には. 2種類の互いに対照的なカテゴリ ー化が関係していると考える。 最後に. そうしたカテゴリー化の仕方の違いとthanに後続する命題の典型性条件(ここでは. 後行命題が明らかにく偽>であるという制約)が. 当該構文の「構 文的意味」の創発にどのように関わるのかについて議論する。 その際,「クジラ構文」という発話における対話者間のやりとりを「レトリック」という観点から捉え直し. それが当該構文の新しい特徴づけであると主張する。 つまり. 聞き手の誤信念を修正するために「レトリック」が効果的に用いられ. それが構文特有の「修辞的効果」として特徴づけられることを示す。