著者
Hidenori Samoto 佐本 英規
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.471-516, 2021-01-28

2013 年 10 月,ソロモン諸島マライタ島南部アレアレの熱帯雨林に即製のレコーディング・スタジオが出現した。本論文は,アレアレの在来楽器である竹製パンパイプと即製のレコーディング・スタジオをめぐる一連の出来事の検討を通じ,グローバル化時代のアレアレの在来楽器が混淆化する様相を論じる。着目するのは,一方で在来の竹製パンパイプを取り込み同時代の音楽を生み出そうとする人びとの制作と,他方でグローバル化時代の音楽を組み入れつつ在来の竹製パンパイプを作り直そうとする人びとの制作との対称的な関係である。民族誌の最後の局面では,それぞれの制作が即製のレコーディング・スタジオで時空間を共有する状況が示される。そこでは,プロデューサーとエンジニア,演奏者といった人びとが,レコーディングという共通の出来事に臨みつつ,それぞれの意図の実現に向けて各々の制作行為に取り組む様相に焦点があてられる。最終的に,グローバル化時代において異なる者同士が出会い,ひとつの出来事を共有することの困難と可能性の一端が,音楽をめぐる媒介の営為に関する考察を通して示唆される。