著者
Hidenori Samoto 佐本 英規
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.471-516, 2021-01-28

2013 年 10 月,ソロモン諸島マライタ島南部アレアレの熱帯雨林に即製のレコーディング・スタジオが出現した。本論文は,アレアレの在来楽器である竹製パンパイプと即製のレコーディング・スタジオをめぐる一連の出来事の検討を通じ,グローバル化時代のアレアレの在来楽器が混淆化する様相を論じる。着目するのは,一方で在来の竹製パンパイプを取り込み同時代の音楽を生み出そうとする人びとの制作と,他方でグローバル化時代の音楽を組み入れつつ在来の竹製パンパイプを作り直そうとする人びとの制作との対称的な関係である。民族誌の最後の局面では,それぞれの制作が即製のレコーディング・スタジオで時空間を共有する状況が示される。そこでは,プロデューサーとエンジニア,演奏者といった人びとが,レコーディングという共通の出来事に臨みつつ,それぞれの意図の実現に向けて各々の制作行為に取り組む様相に焦点があてられる。最終的に,グローバル化時代において異なる者同士が出会い,ひとつの出来事を共有することの困難と可能性の一端が,音楽をめぐる媒介の営為に関する考察を通して示唆される。
著者
佐本 英規
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.073-091, 2020 (Released:2020-10-08)
参考文献数
17

本論文は、ソロモン諸島マライタ島南部アレアレ地域の村における人びとの共住のあり方について、歓待をめぐる在地の論理に焦点をあてて考察するものである。アレアレの人びとは、複数の家族が暮らす十数の家屋のまとまりからなる村で生活を送る。村には、父系的な出自原理と夫方居住の原則によって成り立ついくつかの家族が数世代にわたって定住する一方、二次的な権利による土地利用や居住、婚入、親族関係や友人関係を伝手とする一時的な訪問と滞在といった、様々な人の出入りが頻繁に認められる。また、20世紀半ばにアレアレを中心としてマライタ島全域で隆盛した土着主義運動以来、一般的に1つの村は、異なるクランを出自にもつ複数の家族のまとまりによって構成される。複数のクランの成員が同一の土地に共住する今日のアレアレの人びとにとって、来訪者を歓待し、平穏のうちに共に住まうということは、生活上の大きな課題である。そうした課題に対してアレアレの人びとは、独自の方途によって向き合ってきた。本論文では、今日のアレアレにおいて人びとが1つの村に共住することが、互いの差異を制御することを試みる行為と思考の継続によって可能になることが示される。