- 著者
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友近 晋
今井 功
TOMOTIKA Susumu
IMAI Isao
- 出版者
- 東京帝國大學航空研究所
- 雑誌
- 東京帝國大學航空研究所報告 = Report of Aeronautical Research Institute, Tokyo Imperial University
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.146, pp.69-128, 1937-02
水上飛行機が海面上を滑走してゐる場合,或は海面の極く近くを飛行してゐる際に,海面が飛行機の揚力に相當大きい影響を及ぼすことが知れてゐる.實際,數年前英國のFelixstoweに於いてなされた實物飛行機による試驗の結果は,水上機の最大揚力が海面の影響によつて約10%も増加することを示してゐるのである.この樣な揚力に對する海面の影響を理論的に研究することは興味あることであるが,この現象を満足に説明し得る理論は今までに提出されてゐない樣である.普通の所謂渦理論の如きは到底うまくこれを説明し得べしとも思へない.本論文では,一つの試みとして,純粋な流體力學的の一問題を研究し,その結果を水上機の揚力の問題に應用することを試みてゐる.先づ,一つの自由表面を持ち且つ半無限大に擴がつてゐる二次元的の流れの中に一つの平板を置く場合,その平板の受ける揚力は如何といふ流體力學的問題を考へ,その揚力を嚴密に計算した.但し,この場合,自由表面は平板の下方に於いて流れを限界してゐるものとした.次に,平板の迎へ角及び平板と自由表面との間の距離を色々に變へて,平板の揚力が自由表面のために如何に影響されるかを詳しく數値的に研究したものである.この樣な問題は一つの理論的の問題としても興味があると信ずるものであるが,又冒頭に述べた水上飛行機の揚力に對する海面の影響といふ實際的の問題にも密接に關聯してゐると考へられる.即ち,若しも海水が靜止してゐるものと假定し且つ重力を無視するならば海水中の壓力は到る處一定であり,從つてその場合には海水とその上の空氣との境界である海の表面は一つの自由表面を形成すると考へることが出來る故に,吾々の研究した理論的の問題は,かゝる假定の下に於いては,水上飛行機が海面上を滑走する場合,或は海面の近くを飛行する場合の條件とよく似て居て,平板は即ち飛行機の翼に對應し,自由表面は海面に對應することになる.從つて,吾々の問題から得られた結果を,大きい誤なしに,實際問題に應用することが出來ると思はれるのである.本論文に於ける色々な詳しい數値計算の結果を適用すると,水上機が海面上を滑走するか,又はそれの極く近くを飛行してゐて,翼と海面との間の距離が翼の幅と同程度の大いさの場合には,翼の最大揚力は海面のために約6%増加することが理論的に豫想される.この理論的結果は前述の實物試驗の結果と比較さるべきものであつて,吾々の理論的問題では流れが二次元的であるに反し實際の場合には三次元的である故に完全な一致を期待し得ないのは當然であることを考慮すると,理論の結果と實際とはかなりよく合ふと云つてもよいと思はれる.