著者
大橋 きょう子 Kyoko Ohashi
雑誌
學苑 = GAKUEN (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
vol.803, pp.84-93, 2007-09-01

食用油脂が,日常の食生活に普及し始めたと考えられる明治期後半における,食用油脂の種類および油料理の特徴を,『食道楽』全9巻を資料として調査した。『食道楽』の著者である村井弦齋が提唱した油脂の摂取の奨めにより,種々の油脂を用いた西洋料理が掲載され,調理方法もかなり詳細に述べられていた。とりわけバターの使用頻度が高く,調理法も多彩であった。しかし,使用する油脂および食材は一般の家庭では容易に入手できないものもあり,実際に調理され食された料理は限られていたと推察された。明治期後半に出版された『食道楽』に著された調理法は,当時としては時期尚早の感は否定できないが,バターをはじめとする種々の食用油脂を数多く紹介し,食用油脂の摂取を様々な調理法を用いて具体的に示したことは意義あることと考えられた。明治以降の近代において,西洋料理の調理法および食べ方が西洋料理書および婦人雑誌を通じて知識層に伝えられたことにより,以後,油脂調理が広く一般に普及し大衆化した。その一因として,『食道楽』が果たした役割は大きいものであったと言える。西洋料理の手法を用いた油脂調理の啓蒙は時代と共に進化し,油脂調理が今日の多様化した食生活に不可欠なものとなる先駆けをつくったことが分かった。
著者
大橋 きょう子 Kyoko Ohashi
出版者
昭和女子大学近代文化研究所
雑誌
学苑 (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
no.803, pp.84-93, 2007-09

食用油脂が,日常の食生活に普及し始めたと考えられる明治期後半における,食用油脂の種類および油料理の特徴を,『食道楽』全9巻を資料として調査した。『食道楽』の著者である村井弦齋が提唱した油脂の摂取の奨めにより,種々の油脂を用いた西洋料理が掲載され,調理方法もかなり詳細に述べられていた。とりわけバターの使用頻度が高く,調理法も多彩であった。しかし,使用する油脂および食材は一般の家庭では容易に入手できないものもあり,実際に調理され食された料理は限られていたと推察された。明治期後半に出版された『食道楽』に著された調理法は,当時としては時期尚早の感は否定できないが,バターをはじめとする種々の食用油脂を数多く紹介し,食用油脂の摂取を様々な調理法を用いて具体的に示したことは意義あることと考えられた。明治以降の近代において,西洋料理の調理法および食べ方が西洋料理書および婦人雑誌を通じて知識層に伝えられたことにより,以後,油脂調理が広く一般に普及し大衆化した。その一因として,『食道楽』が果たした役割は大きいものであったと言える。西洋料理の手法を用いた油脂調理の啓蒙は時代と共に進化し,油脂調理が今日の多様化した食生活に不可欠なものとなる先駆けをつくったことが分かった。
著者
大橋 きょう子 Kyoko Ohashi
雑誌
學苑 = GAKUEN (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
vol.815, pp.84-97, 2008-09-01

食用油脂が日常の食生活に普及し始め,油脂調理が家庭に定着する兆しが見えたと考えられる明治時代末期から大正時代末期までの19年間における食用油脂を用いた調理について,当時の婦人雑誌のひとつである『婦人之友』を調査対象として,食用油脂の種類および油脂調理の実態を調査し,特徴を明らかにした。日本料理は胡麻油を用いて揚げる調理が,支那料理では胡麻油およびラードを用いて妙める調理が多かった。日本料理および支那料理は,油脂を単独で使用する場合が多く,油脂の種類および油脂を用いた調理法としては,炒める,揚げる,焼く調理に限られていた。これに対して西洋料理は,炒める,揚げる,焼く(焼き付ける),煮る(煮込む),加熱用ソース,製菓材料,非加熱ソース,風味付けなどにバターをはじめとした食用油脂を使用し,しかもひとつの料理に複数の油脂を用いていた。特に西洋料理におけるバターの使用頻度は他の食用油脂に比べて最も多く,その調理方法および利用範囲も他の油脂類に比べて広いことが認められた。西洋料理同様に和洋折衷料理においても油脂を複数用いた調理が多く,調理法も多種多様であった。西洋料理の普及とともに,和洋折衷料理が誕生し定着した経緯の中で,油脂を用いた調理は増加傾向を示し,油脂の調理法は多様化したことが明らかとなった。明治時代以来,ひたすら西洋料理に目を向けその普及に努めてきた社会の風潮は,婦人雑誌の料理記事にも表れていたことを認めた。明治から大正時代にかけての油脂調理の大半は,西洋料理および和洋折衷料理であり,油脂を多量に使用する支那料理が一般家庭で日常的に調理できるには至っていなかったことが分かった。