著者
MILLER Alan・S 山岸 俊男 大坪 庸介 山岸 みどり 大沼 進 ミラー アラン
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究の主要な成果は、以下の4点にまとめられる。(1)信頼と社会的知性との関連について。囚人のジレンマ(PD)における他者の行動予測の正確さが、共感4因子のうちの、想像性因子とのみ関連しており、他の因子とはほとんど関連していないことが明らかにされた。PDで協力行動を取った人物の顔写真と、非協力行動を取った人物の顔写真の再認において、後者の写真の再認率が前者の写真の再認率を上回ることが明らかにされた。(2)集団所属性に基づく信頼について。集団所属性にもとづく内集団成員に対する信頼が、内集団成員に対するポジティブなステレオタイプによって支えられているのではなく、集団内部に一般的互酬性が存在するという直感的な集団理解により支えられていることが明らかにされた。(3)信頼関係形成プロセスにおけるリスクテイキングの役割について。信頼関係形成に際して、リスクの程度が外的環境により決定される状況と、リスクの程度を自分で決定できる状況とを比較することで、リスクテイキングのオプションが信頼関係の形成を促進することが明らかにされた。(4)情報の非対称性が存在する社会関係での信頼行動を支える評判システムの役割について。情報の非対称性が存在するインターネット・オークション市場を再現した実験を実施し、適切な評判システムが存在しない限りレモン市場化が確実に発生することが明らかにされた。更に、単純な評判システムではレモン市場問題の有効な解決をもたらされないことが確認され、適切な評判システムを支える条件についての示唆が得られた。これらの研究成果は、リスクテイキングを中核とする信頼行動を生み出す心理的プロセスと、社会制度の両面から、信頼社会形成のための条件を明確にしている。