著者
小山 七海 荒井 歩 Nanami Oyama Ayumi Arai
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 = Journal of agriculture science, Tokyo University of Agriculture (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.65-75, 2020-12

神奈川県大磯は,その温暖な気候により近代に別荘地として注目された。1885(明治18)年に陸軍軍医である松本順によって海水浴場が開設されたことで別荘地としての発展が始まる。1887(明治20)年には国鉄東海道本線の大磯駅が開業し,1896(明治29)年に初代総理大臣伊藤博文が大磯に住んだことで多くの著名人が大磯に別荘地を設置した。本研究は,別荘居住者の職業属性と別荘地の所在地を調査した上で,別荘居住者間の関係性を明らかにした。加えて別荘居住者の大磯における行動状況も整理した。さらに,職業属性および入居年代毎に別荘地の立地場所の傾向を分析し,大磯の景観的特性との関係について考察を行った。調査の結果,別荘地では政治家を中心としたコミュニティが形成され,伊藤博文,陸奥宗光,西園寺公望,加藤高明,山県有朋の5名が別荘地形成のキーパーソンとして挙げられた。また別荘居住者は大磯において政治的交流や病気療養を行っていたほか,地域のために寄付行動を行っていた。別荘地の範囲を地形特性に基づき8つの領域に区分し,各領域内における別荘地の分布状況を調べた結果,居住年代毎に別荘地の立地傾向に特徴があることが明らかとなった。