著者
Nasution Asnawir 村岡 洋文 Rani Mawardi TAKASHIMA Isao TAKAHASHI Masaaki AKASAKO Hideo MATSUDA Koji BADRUDIN Muhammad
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.87-97, 2002
被引用文献数
1 1

フローレス火山弧の溶岩類は玄武岩からデイサイトの組成範聞をもつが,とくに安山岩に卓越し,ソレイアイト岩系ではビジョン輝石,カンラン石を,カルクアルカリ岩系では角閃石や黒雲母を斑晶とし て合む.化学的には,広い範囲のSiO<sub>2 </sub>(51ー67 wt.%)およびAl<sub>2</sub>O<sub>3</sub> (14-20 wt.%)合量と低いTiO<sub>2</sub> (<1 wt.%)含量を示し,比較的高いRb,SrおよびBa含量を示す. これらKグループ元素はべニオフ帯の深度の増大につれて増加する. ソレイアイトからカルクアルカリ溶岩にかけてのストロンチ ウム同位体比は0.7042-0.7045であり,これも島弧を横断して沈み込むスラブの深度に比例していると推定される. フローレス島の地熱有望地域は若い安山岩や玄武岩の火山地域に位置し,標高500-1000 m にあって,火山活動後の断裂と断層や,カルデラ構造に伴う. 湧出熱水は広い化学的タイプを示 し,硫酸塩型,塩素型,重炭酸塩型に分けられる.硫酸塩型は主に噴気に伴って,高い火山地域 (標高 700-1100 m)に位置し,表層におけるH<sub>2</sub>Sの酸化を示す(Ulumbu, Mataloko, NageおよびSokoria). 重炭酸塩型熱水はLangagedaやSokoria2のように火山中腹 (標高400-700 m)に位置する. 中性塩素型熱水は低い火山地域 (標高5-600 m)に位置し,温度210-280 ℃の地熱貯留層からのアウトフローを示す.地熱井はUlumbu とMataloko地熱有望地域でそれぞれ700-1800 mと200m の深度まで掘削されているが,200から240°C の地下温度を示し,その高い硫酸塩濃度が蒸気卓越型に伴うことを示している. 同様の型はSokoria地域にも期待される. 他方,高塩素型の地熱有望地域はおそらく熱水卓越型か混在型を示すのであろう (Wai Sano, Wai Pesi, Jopu, LesugoloおよびOka).
著者
古川 竜太 高田 亮 Nasution A. Taufiqurrohman R.
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

リンジャニ火山はインドネシア, ロンボク島北半分に配列する第四紀成層火山体群の中心にあり,山頂西部にある径6x8kmのカルデラは13世紀の破局的噴火で形成された(Nasution et al., 2003; 高田ほか, 2003,Nasution et al., 2010; Lavigne et al.,2013). カルデラ形成に先立って, およそ2万年前から1万年前にかけてリンジャニ火山が標高3726m, 総体積100km3の成層火山体を建設した. およそ5000年前からは爆発的噴火を間欠的に起こし, 13世紀の破局的噴火に至った. カルデラ形成噴火の推移は噴火堆積物から6フェイズに区分できる. 各フェイズ間に顕著な時間間隙を示す証拠は見つかっていない. フェイズ1の小規模な水蒸気噴火のあと,フェイズ2ではプリニー式噴火によって発泡の良い軽石を主体とする降下火砕物を西側の広い範囲に堆積させた. フェイズ2末期では粒径が細かくなり, 異質岩片が増加する. フェイズでは火砕流が発生し, 北麓で層厚10m以上の無層理塊状の軽石流堆積物を分布させた. 南西麓や遠方の地域には成層した火山灰流堆積物が広く分布する. 層厚数cm?50cmまで層厚が変化し, 地形的凹地では厚く堆積し, 下位の降下軽石層を削り込むことがある. 推定噴出源から50km近く離れた南西地域や, 海を隔てたギリ諸島にも堆積していることは, 高い噴煙柱から崩壊した希薄な火砕流堆積物であることを示唆する. フェイズ4はふたたびプリニー式噴火となる.降下軽石堆積物は級化構造の繰り返しと細粒火山灰が挟在することから, フェイズ2に比べてプリニー式噴煙が不安定であったことを示唆する. フェイズ5では, ふたたび火砕流が発生し, 厚い無層理の軽石流堆積物が山麓を30km以上の範囲を覆って海岸線に到達した. 火砕流堆積物には花崗閃緑岩など地表に露出しない岩石が含まれる.フェイズ6ではプリニー式噴火が発生したが, フェイズ2と4に比べると規模は小さい. 噴火に関与したマグマはSiO2=62.5-66wt.%, Na2O+K2O=7.5-8.7wt.%の粗面安山岩から粗面岩質である.フェイズ3から4にかけてより珪長質な軽石が増加する.フェイズ4のプリニー式噴煙が不安定で, フェイズ5で大規模な火道の浸食が起こったことを考慮すると, フェイズ4から大幅な火道の拡大あるいは新たな火道形成によって, それまで噴出していなかったマグマが吸い出された可能性がある. フェイズ6のプリニー式噴火は崩壊したカルデラ床によって閉塞された細い火道から起こったと考えると説明可能である. 南極およびグリーンランドの氷床試料では西暦1258?1259年相当の層準に硫酸酸性の強いスパイクがあることが以前から指摘されていた(Palais et al., 1992など).氷床試料から抽出した火山ガラス片の主成分化学組成はこれまでメキシコのエルチチョン火山に対比されていたが,リンジャニカルデラ形成噴火の火山ガラス組成は,両極地方の火山ガラス組成により近い.よってリンジャニカルデラの形成は1258?1259年頃である可能性がある.Lavigne et al., (2013) は同様の手法で噴火を対比して,噴火時期は古文書から1257年とした.両極地方の硫酸堆積量から計算されたSO2放出量は200メガトンであり(Langway et al., 1988),最近千年間で最大である.リンジャニカルデラ形成噴火が地球規模の気候変化に影響を与えた可能性が大きい.