著者
Neuberger Bernhard 乙政 潤
出版者
京都外国語大学
雑誌
研究論叢 (ISSN:03899152)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.237-257, 2006

前号に引き続いて,これまでの紹介で名を逸した作家と作品を取り上げる。今号では,まず第1回ですでに紹介した島崎藤村の作品のうち,当時紹介を逸した『夜明け前』を久保栄との関連から取り上げ,梗概を紹介する。さらに,前号で紹介した久保田万太郎の作品に追加して『春泥』ならびに『花冷え』の二作品の梗概を紹介する。最後に伊藤左千夫,石坂洋次郎,阿部知二,高見順,久保栄の5名の生涯と主要作品の梗概を紹介する。各作家の生涯を紹介するにあたっては,主に『日本百科全書』 (小学館)の記述を参照したが,その都度,関連文献もあわせて参照した。今回紹介した作家の誰一人として作品がすでにドイツ語に翻訳された者はいない。したがって, Jurgen Stalph / Gisela Ogasa / Dorte Plus: Moderne japanische Literatur in deutscher ubersetzung. Eine Bibliographic derjahre 1868-19941に書誌的データが収録されている者がなかった。2004年3月刊行の本誌LVからXVIにかけて連載した「現代日本文学紹介」に洩れた作家ならびにその主要作品を補足することを目指した本稿は,所期の目的をひとまず達したと考えるので,今号を以て終わる。すでに「現代日本文学紹介」において戦後に主要作品を発表した作家も扱ったけれども,このままさらに紹介を続けて現在第一線で活躍している作家にまで筆を及ぼすことは,筆者たちの本来目指した現代日本文学の古典とそれに準ずる作家と作品の紹介という目標から逸れる。戦後60年の日本文学作品が専門家によって総括され整理されてたときはじめて, 「現代日本文学紹介」の続編は開始されるべきであろう。
著者
Neuberger Bernhard 乙政 潤
出版者
京都外国語大学
雑誌
研究論叢 (ISSN:03899152)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.379-401, 2007

本稿は三つの先行する紹介, Ein kleiner Fuhrer durch die japanische Literatur der Neuzeit (1)-(2) (Brucke 1 [1998年3月刊] -Brucke 2 [1999年3月刊]), Kommentierter Uberblick zu den Werken der japanischen Literatur der Neuzeit (1)-(7)(『研究論叢』 55[2000年9月刊]-『研究論叢』61 [2003年9月刊]),およびErganzungen zum kommentierter Uberblick zu den Werken der japanischen Literatur der Neuzeit (1)-(6) (『研究論叢』62 [2004年3月刊]-『研究論叢』67 [2006年7月刊],にさらに補足を加えようとするものである。筆者たちは,本来,上記3篇の連載を通じて,原則として,明治から昭和の敗戦までのあいだの各時期の現代日本文学を代表すると見なし得る作家の主たる作品を輝介することを目指した。戦後に発表された作品のなかにもすでに古典的名声を博している作品があるにもかかわらず,それらはほとんど採り上げなかった。それらは,戦後60年の日本文学作品が専門家によって総括され整理されたときはじめて「現代日本文学紹介」の対象となりうると考えたからである。そして,続編の(6)でもって所期の目的をひとまず達したと考えたのであったが,擱筆後ふりかえり通読してみて,上記の紹介になおも洩れている作品があるのを見い出した。本稿はこれらの作品の紹介を目指して,今号を含めて前後3回にわたって筆を進めるつもりである。今号では,まずKommentierter Uberblick (1)ですでに紹介した国木田独歩に『運命論者』,『酒中日記』,『竹の木戸』,『窮死』の4篇を,田山花袋に『田舎教師』を,島崎藤村に自伝的作品である『桜の実の熟する頃』,『春』,『家』,『新生』の4篇と短編の『旧主人』,『ある女の生涯』,『三人』を,劇作家である岡本綺堂に戯曲の『修善寺物語』と『小来楢の長兵衛』の2篇を加えた。またKommentierter Uberblick (2)で取り上げた有島武郎には長編『ある女』および童話『一房の葡萄』杏,志賀直哉に短編の『小僧の神様』,『赤西蠣太』,『清兵衛と瓢箪』,『城の崎にて』を加えた。これまでの紹介では原題や作者名を漢字で記していたが,すべてローマ字表記に改めた。また,作品の題もドイツ語訳で示し,原題はあとの( )内に記した。さらにそのあとにジャンルと発表年次を記した。原題がドイツ語訳からは想像しにくいと思われる場合に限って,原題のあとの[ ]内にドイツ語の直訳を記した。なお,作品単位で紹介する形式に統一することとし,紹介順は作品の発表された年次の順(同年の場合は月順)によることにした。そのため,同一の作者の作品が必ずしも連続して紹介されない。作品の梗概紹介のあとに,作品についての短いコメントを紹介した。コメントの出典は末尾に注としてまとめた。スペースをとることを恐れ,当該作品のドイツ語訳が存在するかどうかを紹介する記事は割愛した。ドイツ語訳が存在するか否かは, 1994年までに刊行された翻訳についてはStalph, Jurgen / Giesela Ogasa / Drote Puls: Moderne japanische Literatur in deutscher Ubersetzung. Eine Bibliographic der Jahre 1868-19941によって調べるのが便利である。