著者
太田 伸広 Ohta Nobuhiro
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.26, pp.41-73, 2009

一方的恋愛結婚は、柏手の意思を確認せず、一方的な恋愛感情で相手をもらう結婚である。一方的恋愛結婚の特徴の一つは、一方的に惚れ、結婚しようとする者は、社会的地位、身分が相手より上で、しかも男性だということである。もう一つは、一方的恋愛結婚は相手の意思、考え、感情などを無視した結婚であるにもかかわらず、実際にはそれが苦難、困窮、いじめ、迫害からの主人公の救済になっていることである。そしていじめたり、迫害した者は悲惨な罰を受けることが多い。次は、グリム童話と『日本の昔ばなし』の相違点である。前者では、家の干渉などまったくなく、惚れて結婚しようとする者が自分の思いをはっきりと打ち明けて結婚するが、後者では、一方的に惚れて結婚しようとするほどに積極的な気持ち、愛情があるのに、自らの思いを相手に打ち明けない話が半数近くもある。親任せ、家任せなのである。グリム童話では主人公はほとんど全員が外見の美しさに惚れるが、『日本の昔ばなし』では主人公の多くが内面の美しさに惚れる。
著者
太田 伸広 Ohta Nobuhiro
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.27, pp.59-95, 2010

鬼には角や牙、爪があったりするが、 Teufel にはない。馬の足が Teufel の印である。鬼の色は赤が基本で、青、黒、白だが、 Teufel は黒色しかいない。鬼は女の鬼がいるが、 Teufel に女はいない。鬼は大きく力強い大人(鬼女は年寄りも)であるが、 Teufel は大男はおらず、年寄りで小人のイメージが強い。鬼は腕力が強く、頭が弱いが、 Teufel には超人的な知識を持つものも数々いる。鬼は打出の小槌や万里車、飛び蓑、隠れ蓑、生き鞭、死に鞭、宝物など夢ある物を持ち、それらが人間の手に渡り、人々に幸福をもたらすが、 Teufel の持ち物はお金しかない。鬼は人間の生活圏に現れることが多いが、 Teufel が人家に現れることはない。鬼の住処は山、鬼が島、鬼の家、穴、天井、地獄などであるが、 Teufel はほぼすべて地獄に住む。 Teufel は金をちらつかせ、貧しい者に接近し、契約を結び、魂を奪おうとする。こんな鬼は一匹もいない。 Teufel は悪人の魂を奪い、地獄に落とすことで、善人を救い、悪人を罰す神の役割をも果たしている。こんな鬼もいない。鬼は女を浚い、妻にし、子をもうけたりするが、そんな Teufel はいない。鬼は人を食うし、食う場面もあるが、 Teufel は人を食うと想像させるものが一匹いるだけで、原則人を食わない。 Teufel は神の対概念で、神に反対し神と闘うが、鬼が神や仏の対概念であることはない。総じて、鬼は人間的で地上的で非宗教的であるが、 Teufel は超人間的、地下的、来世的、キリスト教的な存在である。