- 著者
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太田 伸広
Ohta Nobuhiro
- 出版者
- 三重大学人文学部文化学科
- 雑誌
- 人文論叢 (ISSN:02897253)
- 巻号頁・発行日
- no.27, pp.59-95, 2010
鬼には角や牙、爪があったりするが、 Teufel にはない。馬の足が Teufel の印である。鬼の色は赤が基本で、青、黒、白だが、 Teufel は黒色しかいない。鬼は女の鬼がいるが、 Teufel に女はいない。鬼は大きく力強い大人(鬼女は年寄りも)であるが、 Teufel は大男はおらず、年寄りで小人のイメージが強い。鬼は腕力が強く、頭が弱いが、 Teufel には超人的な知識を持つものも数々いる。鬼は打出の小槌や万里車、飛び蓑、隠れ蓑、生き鞭、死に鞭、宝物など夢ある物を持ち、それらが人間の手に渡り、人々に幸福をもたらすが、 Teufel の持ち物はお金しかない。鬼は人間の生活圏に現れることが多いが、 Teufel が人家に現れることはない。鬼の住処は山、鬼が島、鬼の家、穴、天井、地獄などであるが、 Teufel はほぼすべて地獄に住む。 Teufel は金をちらつかせ、貧しい者に接近し、契約を結び、魂を奪おうとする。こんな鬼は一匹もいない。 Teufel は悪人の魂を奪い、地獄に落とすことで、善人を救い、悪人を罰す神の役割をも果たしている。こんな鬼もいない。鬼は女を浚い、妻にし、子をもうけたりするが、そんな Teufel はいない。鬼は人を食うし、食う場面もあるが、 Teufel は人を食うと想像させるものが一匹いるだけで、原則人を食わない。 Teufel は神の対概念で、神に反対し神と闘うが、鬼が神や仏の対概念であることはない。総じて、鬼は人間的で地上的で非宗教的であるが、 Teufel は超人間的、地下的、来世的、キリスト教的な存在である。