著者
中牧 弘允 SANTOS Anton MONTEIRO Clo COUTO Fernan ARRUDA Luiz 古谷 嘉章 原 毅彦 武井 秀夫 木村 秀雄 SANTOS A.M.de Souza COUTO F.de la Roque ARRUDA Luiz・
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

アマゾン河流域の開発は、ブラジル西部以西の西アマゾンにおいて、急速に進展しつつあり、本研究は環境問題と社会問題の鍵をにぎる人物として、シャーマン、呪医、民間祈祷師、宣教師などに焦点をあて、実証的な調査をおこなってきた。研究対象とした民族のいくつかは僻遠の地に居住し、そこへの到達は困難を究めたが、短期間ながらも調査ができ、実証的なデータを集めることができた。1.先住民(インディオ)社会(1)サテレマウエ族 日本側とブラジル側とで最初に共同調査をおこない、国立インディオ基金(FUNAI)やカトリック宣教団体の医療活動の概要を把握し、さらにアフ-ダが保護区内で薬草と保健衛生について調べ、中牧も近接する都市部においてシャーマニズムならびに先住民運動に関する聞き取り調査を実施した。(2)クリナ族(マディハ族) 中牧はジュルア保護区のクリナ族(マディハ族)のすべての集落(6カ村)を訪問し、家族・親族、村と家屋の空間的配置、国立インディオ基金(FUNAI)とブラジル・カトリック宣教協議会(CIMI)の活動などについて調査をおこなった。シャーマニズムに関しては治病儀礼、トゥクリメ儀礼、ひとりのシャーマンの事故死をめぐる言説と関係者の対応などについて、データを収集した。自然観については、子供や青年たちに絵を自由に描かせ、かれらの認識や関心のありようをさぐった。また、うわさ話やデマがもとで女たちの間に集団的喧嘩が発生したが、その推移と背景についても調査した。(3)パノ語系インディオ 木村はボリビア、ペル-と国境を接する地域に住むカシナワ族を中心にシャーマニスティックな儀礼の観察をおこない、儀礼歌を収録した。また、非パノ語系クリナ族や「白人」などとの婚姻をとおして進行する複雑な民族融合の実態についても基礎データを収集した。(4)東トゥカノ系インディオ 武井はサンガブリエル・ダ・カショエイラにおいて東トゥカノ系インディオの神話と民間治療師たちの呪文の収録をおこない、ポルトガル語への翻訳の作業をすすめた。その呪文のなかでは、熱の原因としてプラスチック製ないしビニール製の袋に魂がとじこめられることが言及され、近代的な要素も取り込まれていることが判明した。また、呪文自体も昔とくらべ短くなっているいことがわかったが、今では文字を通して暗唱できることがそうした変化の一要因となっていた。(5)カトゥキ-ナ族 古谷はジュタイ川の支流のビア川流域に住むトゥキ-ナ族の集落を調査した。ここではOPAN(カトリック系インディオ支援団体)が教育・医療活動に従事している。カトゥキ-ナ族にはシャーマニズムそれ自体はほとんど見られないが、クリナ族に呪いの除去を依存していることなどが判明した。また、OPANの活動を通じて、FUNAIとは異なる接触・支援のしかたについても、情報が入手できた。(6)マティス族、カナマリ族、マヨルナ族、クルボ族 アフ-ダはジャヴァリ川流域の諸民族について民族薬学的調査を実施し、マティス族においてはシャーマンがほとんど死亡したという情報を得た。(7)カンパ族 コウトはペル-国境のカンパ族の幻覚性飲料の使用実態、ならびにシャーマンとの聞き取り調査をおこなった。2.非先住民社会(先住民およびその子孫を一部含む)(1)アマゾン河本流域 原はタバチンガ、レティシアにおいて複雑な民族構成とをる社会の民間呪術師を調査対象とし、ジャガ-やアナコンダ(大蛇)のような先住民的表象と、イルカのようにカボクロ(混血住民)のこのむ表象との混合形態をあきらかにした。さらに上流のイキトスにおいても予備的調査をおこなった。(2)ネグロ川流域 サントスはネグロ川流域の住民が利用する薬用植物、とくにサラクラミラについての研究をすすめた。(3)ジュルア川上流域、プルス川上流域 モンテイロはクルゼイロ・ド・スルを中心に幻覚性飲料の摂取をともなうシャーマニスティックな民間習俗について調査し、コウトも幻覚性飲料(サントダイミ)をつかう宗教共同体において、その生活文化ならびに環境保護運動について調査を実施した。日本側研究者も幻覚性飲料を儀礼的に使用するいくつかの集団を訪問し、最新の動向についての情報を入手した。以上の調査をふまえ、サントスを日本に招聘し、ブラジルのCNPq(国立研究評議会)への報告書作成、ならびにポルトガル語による研究成果報告書の作成にむけての打ち合わせをおこなった。