著者
小黒 千足 SUCHANA WISS SUDARA SURAP 笹山 雄一 内山 実 菊山 栄 小笠原 強 平野 哲也
出版者
富山大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1987

カニクイガエルは海水に適応しうる唯一のカエルである. 通常は両生類に適さない環境に, カニクイガエルがどのように適応しているかを知ることは, それ自体長い間動物学上懸案であった問題を解決するばかりでなく, 両生類のみならず他の動物群における適応性を論議する基礎を確立するものである.昭和62年4月16日より2週間タイ国, バンコク, アンシラおよびその周辺で, チュラロンコン大学理学部海洋学教室の協力のもとに, カニクイガエルの採集および採集された個体の実験とサンプリングを行った. その結果以下の点が明らかになった.(1) アンシラにおけるカニクイガエルの生息箇所の池の水の塩濃度は海水とほぼ等しい(第3ページ表1)(2) カニクイガエルの血清の塩濃度は, 淡水に生息するトノサマガエルに比して高い(第3ページ表2)(3) 体組織および器官の塩含有量中, Ca, Mg, Naは部分によってはトノサマガエルに比べ著しく高い (第3ページ図1)(4) 実験的に明らかにされた耐塩性は, 両生類としては特筆すべきものである. 順化なしでは16ー24時間, 次第に順化された場合には, 48時間全海水中に耐えることができる. なお, 比較したトノサマガエルの全海水中における生存時間は1.5時間であった.以上の結果より(1) カニクイガエルの耐塩性が実験的に示された.(2) 現在まで全く不明であったカニクイガエルのCaとMgの含有量について充分な知識が得られた. また, Naについての補足的なデーターを得ることができた.(3) 上記(1)(2)にもとずき, 両生類の耐塩性に関する生理学的基礎を明らかにすることができた.