著者
足達 太郎 石川 忠 岡島 秀治 Taro Adati Ishikawa Tadashi Shuji Okajima
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.267-276, 2010-03

上越市の西部中山間地域の二つの集落において,慣行農法および有機農法を実施している水田から,はらいおとし法によって節足動物を捕獲し,害虫・天敵・その他に区分したうえで,種(種群)ごとの生息密度と種多様度を調査した。捕獲した全サンプルのうち,害虫は個体数比率で70%を占めたのに対し,天敵とその他の節足動物はそれぞれ16%および14%にとどまった。類別にみると,害虫のなかではウンカ・ヨコバイ類が大多数をしめ,そのほかにガ類やコウチュウ類が捕獲された。天敵のなかではクモ類が大多数をしめた。その他の節足動物ではトビムシ類が大半をしめ,ほかにユスリカ類が捕獲された。集落別・農法別にみた害虫および天敵の生息密度は,年次や季節によって変化がみられた。このような発生消長はウンカ・ヨコバイ類,フタオビコヤガ,クモ類でも顕著だった。二元分散分析の結果,集落のちがいが生息密度に有意な影響をおよぼすのは,セジロウンカなどをふくむ5種および8種群の節足動物であることがわかった。いっぽう,農法のちがいが生息密度に有意な影響をおよぼすのは,クモ類などをふくむ2種および6種群であり,そのうち1種群以外はすべて生息密度が慣行区よりも有機区で高かった。各調査区について種の多様度指数(H′)をもとめたところ,吉浦よりも大渕で害虫の種多様度が高く,また慣行区よりも有機区のほうが高かった。天敵では集落間・農法間とも種多様度に顕著な差はみられなかった。本研究の結果,有機区での生息密度が高く,年次ごとに比較的安定した密度推移を示すことがわかったクモ類については,今後,さまざまな種類の農法が水田生態系におよぼすインパクトを評価するための指標生物として活用できる可能性がある。