著者
東条 敏 Stephen Wong 新田 克己 横田 一正
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.51-60, 1995-01-15
参考文献数
23
被引用文献数
6

法的推論の研究は、人工知能の研究者にとっても司法の現場からも魅力的な話題であるが、法令文の解釈は常に背後条件や周囲条件に依存するため、その形式化を困難にしている.。本稿の目的は、法的推論のしくみを状況理論の観点から整理し、形式化することである。状況理論は、述語論理のみによる記述系に対して、以下の点で有利である。第一に、状況はそれに対応するルールとファクトの集合を定義できるため、モジュールの概念を用いて計算機上に実装が可能であり、モジュール間の集合演算や継承などを実現できる。第二に、いろいろな状況依存に関わる現象が同じ状況推論のルールの形に書くことができるため、法の適用範囲、背後条件、判例などが、一様な記述系で表現できる。本稿では、ひとつの判例を状況と見立て、その中だけで局所的に成り立つ判例に依存したルール、判例を一般化した状況で成り立つルール、普遍的な状況で成り立つ法令文ルールを区別する。これらルールを薪事件に対応させるため、ルールの中の個体名や変数を新しい個体名に書き替え、ルールの連鎖により新たな法的判断を求めることができるモデルを示す。また、新事件と過去の判例との類似性判断についても、状況理論的に形式化する。この枠組は灼知識べ一スシステムQuixoteを用いて実験的に実装されており、実際の判例を用いて推論のしくみの例を紹介する。