著者
Toaha Sahabuddin 石井 康之 沼口 寛次 蔡 慶生 園田 立信
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 = Japanese journal of tropical agriculture (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.98-107, 2001-06-01
被引用文献数
1

暖地型イネ科牧草マカリカリグラスは, 種々の環境ストレス, 特に土壌の乾燥と低温に対する耐性が比較的強く, 栽培品種(雪印系)内に形態的変異が大きい.そこで, 播種して造成した越冬後の翌年春に, 再生した越冬株を株分けし, 1株1系統とし, 合計17系統を選抜した.毎年栄養繁殖により系統保存し, 保水力の弱い砂質土壌の調査地(住吉)で4年度間にわたり, 保水力の強い壌質土壌の調査地(木花)で2年度間にわたり調査した.調査項目は, 1,2,3番草における植物体諸形質として, 地上部乾物重(DMW), 総茎数(TTN), 平均一茎重(MTW)および節間伸長茎数比率(PET)で, 翌年4月の越冬性として越冬率(POP)と再生茎数(RTN)を調査した.これらの系統間変異を1996〜1999年度に検討した.乾燥耐性は, 保水力の異なる2調査地における乾燥年度の生育状況から評価した.DMWの番草間順位はMTWおよびPETのそれとほぼ一致し, 3形質ともに2番草で最大となったのに対し, TTNは刈り取りを進めるにつれ増加した.これらの系統間変異は, DMWで最大となる傾向がみられ, 刈り取りを進めるにつれ概して増加した.顕著な小雨で土壌の乾燥が認められた住吉の1998年度2番草を除いて, 全系統の植物体諸形質は異なる年度間でほぼ正の相関関係が成り立ち, 乾燥ストレスのない場合, これらの系統間差は年度間で安定であることが示唆された.住吉において温暖な冬を経過した1998年春と1999年春では, より寒い冬を経過した1997年春と2000年春に比べ, POPとRTNは増加し, その系統間変異は減少した.植物体諸形質とPOPとの間には, 上記した住吉の1998年度2番草で唯一正の相関関係が認められた.しかし, 保水力の強い木花では, 全系統の植物体諸形質と越冬率との相関は両年度とも認められなかった.このことから, 乾燥土壌下でも高い生長能力を示す乾燥耐性の強さとより寒い年度で高い越冬性を示す低温耐性の強さとの密接な正の関連性が示唆され, 圃場実験により植物体諸形質と乾燥および低温の両耐性に優れたマカリカリグラス系統の選抜が可能であると推察された.