著者
関 節朗 佐藤 収
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 = Japanese journal of tropical agriculture (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.290-294, 2002-12-01

パラグアイ・イグアス地域の不耕起畑では,深さ 5〜15cm のところにダイズ根の伸長を妨げる圧密層が存在し,多くのダイズに根系分布の浅層化が観察されている.この根系分布の浅層化を改善するため,2000/01年のダイズ栽培期間にパラグアイ農業総合試験場 (CETAPAR) において,スリット播種の効果について試験を行った.スリット播種とは,不耕起用播種機に装着されているコールタによって,土壌に切れ目を入れて,切れ目線上に播種する方法である.処理はスリットの深さ 5cm(S-5区),10cm(S-10区),15cm(S-15区)の3段階を設けた.初生葉展開期における地表面から主根先端までの長さは,S-5, S-10, S-15区でそれぞれ 8.9,11.6,14.9cm と,スリットが深いほど主根は深くまで伸長した.播種後10日目に測定した深さ 10〜15cm の土壌硬度は,S-5, S-10, S-15 区でそれぞれ10.5〜11.2, 8.7〜9.7, 1.1〜2.3kg/cm^2と,スリットが深いほど低くなった.開花期における異常根系発生率は,S-5, S-10, S-15区でそれぞれ82, 58, 22%と,スリットが深いほど根系異常は少なくなり正常根系の割合が多くなった.このことからスリット播種は主根の伸長速度の大きい出芽前後の土壌硬度を減少させて,主根の鉛直方向への伸長を促進し,その後の根系分布の発達に大きく寄与していることが明らかになった.また,子実収量はS-5, S-10, S-15区で,それぞれ3.2, 3.5, 3.8t/haと,スリットが深いほど増収した.
著者
佐藤 卓 Moreshet Samuel 高垣 美智子 篠原 温 伊東 正
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 = Japanese journal of tropical agriculture (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.61-69, 2003-06-01

地下水の過剰利用や地球環境の変化により、旱害は農業生産において深刻な問題となりつつあることから,乾燥条件下における植物生理の理解を深め、乾燥ストレス耐性を付与した品種育成を目的とした研究が急務となっている.Capsicum annuum L.の中で,タイチリとニューエースは環境ストレスに対して対照的な反応を示す品種として知られていることから,この2品種を用いて乾燥ストレスに対する生理的反応を調査した.乾燥ストレス処理に際し,ヒートパルス法によるサップフロー,気孔コンダクタンス,葉の水ポテンシャルの測定を行った.タイチリは乾燥に対してより高い感受性を示し,水分供給量が限られている場合に蒸散による余分な水分損失を押さえていると思われた.また,潅水を再開した後の,サップフロー,気孔コンダクタンス、葉の水ポテンシャルの回復はタイチリの方がニューエースよりも早かった.さらに,一度乾燥ストレス処理を受けた植物は二度目のストレス処理の際に,以前に乾燥ストレスを受けていない植物よりも強い乾燥ストレス耐性を示した.品種間における形態,生理的な違い,つまり,葉や根の構造、及び、乾燥に対する水ポテンシャル調整機能の違いが、乾燥ストレスに対する反応の違いをもたらしたと考えられた.
著者
Toaha Sahabuddin 石井 康之 沼口 寛次 蔡 慶生 園田 立信
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 = Japanese journal of tropical agriculture (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.98-107, 2001-06-01
被引用文献数
1

暖地型イネ科牧草マカリカリグラスは, 種々の環境ストレス, 特に土壌の乾燥と低温に対する耐性が比較的強く, 栽培品種(雪印系)内に形態的変異が大きい.そこで, 播種して造成した越冬後の翌年春に, 再生した越冬株を株分けし, 1株1系統とし, 合計17系統を選抜した.毎年栄養繁殖により系統保存し, 保水力の弱い砂質土壌の調査地(住吉)で4年度間にわたり, 保水力の強い壌質土壌の調査地(木花)で2年度間にわたり調査した.調査項目は, 1,2,3番草における植物体諸形質として, 地上部乾物重(DMW), 総茎数(TTN), 平均一茎重(MTW)および節間伸長茎数比率(PET)で, 翌年4月の越冬性として越冬率(POP)と再生茎数(RTN)を調査した.これらの系統間変異を1996〜1999年度に検討した.乾燥耐性は, 保水力の異なる2調査地における乾燥年度の生育状況から評価した.DMWの番草間順位はMTWおよびPETのそれとほぼ一致し, 3形質ともに2番草で最大となったのに対し, TTNは刈り取りを進めるにつれ増加した.これらの系統間変異は, DMWで最大となる傾向がみられ, 刈り取りを進めるにつれ概して増加した.顕著な小雨で土壌の乾燥が認められた住吉の1998年度2番草を除いて, 全系統の植物体諸形質は異なる年度間でほぼ正の相関関係が成り立ち, 乾燥ストレスのない場合, これらの系統間差は年度間で安定であることが示唆された.住吉において温暖な冬を経過した1998年春と1999年春では, より寒い冬を経過した1997年春と2000年春に比べ, POPとRTNは増加し, その系統間変異は減少した.植物体諸形質とPOPとの間には, 上記した住吉の1998年度2番草で唯一正の相関関係が認められた.しかし, 保水力の強い木花では, 全系統の植物体諸形質と越冬率との相関は両年度とも認められなかった.このことから, 乾燥土壌下でも高い生長能力を示す乾燥耐性の強さとより寒い年度で高い越冬性を示す低温耐性の強さとの密接な正の関連性が示唆され, 圃場実験により植物体諸形質と乾燥および低温の両耐性に優れたマカリカリグラス系統の選抜が可能であると推察された.