著者
張 玉玲 Yuling Zhang
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.57-91, 2005-09-30

本稿では,華僑二世,三世および華僑社会へのリターン者(「復帰」者)のライフ・ヒストリーを通して,ミクロな視点から在日華僑が如何にエスニック境界を規定しアイデンティティを獲得していくのかを考察してみる。具体的には,世代交替に伴い,華僑の日本社会への同化が進み,華僑社会の後継者が不足している中,異なる民族・文化観を持つ二世と三世はそれぞれどのように「日本人」,「中国人」そして「華僑」を定義し,そして自らを同定しているのか,特に二世と比べ,三世がアイデンティティを確立しようとする際,エスニック境界の規定に用いられる基準とは何か,また日本人として日本社会へ溶け込もうとしたが,様々な理由で華僑社会に戻った「リターン者」は,如何に両者の間に境界線を引き,いずれかの構成員となろうとしたのか,などの問いを彼らの「語り」を通して分析し,議論していく。そしてこれらの議論を踏まえた上で,エスニック・アイデンティティ形成の条件と華僑における「中国人」の意味合いを改めて検討し,華僑社会の今後を展望してみたい。