著者
高山 龍太郎
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-50, 2000-07

前稿,前々稿において,トマスとズナニエツキ著fヨーロッパとアメリカにおけるポーランド農民』の第一次集団論序論を詳しく見てきた。そこでは,家族を単位とする等質的・固定的な社会から,個人を単位とする異質的・流動的な社会へという変動過程が,様々な角度から検討されていた。家族に代表される伝統的な第一次集団は,相補的な援助に基づく「連帯」によって特徴づけられる。その成員は,見返りを求めずに互いに犠牲を払って助け合い,完全に集団の中に埋没していた。しかし,こうした伝統的な第一次集団は,移民による社会圏の拡大や産業経済などの景簿によって,次第に解体していく。その結果集団の統制に従わない自己本位的な個人が析出されていった。本稿では,以上のような第一次集団論序論の基本的枠組に従い,ポーランドの農民家族と,アメリカに渡った家族員との間で交わされた手紙の分析を見ていく。前々稿において『ポーランド農民』には「抽象度の高い形式主義的な方法論のレベル」「農民の近代化を扱ったより実質的な理論のレベル」「資料のレベル」という三つのレベルが想定できることを指摘しだ。本稿は,その「資料レベル」を扱うものである。そこには急激な社会変動期における農民たちの生活が,生き生きと表れている。

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